オスプレイ問題からAKB48襲撃事件まで、激しく読者を刺激する押井守エッセイ集

小説・エッセイ

2015/6/10

世界の半分を怒らせる

ハード : 発売元 : 幻冬舎
ジャンル: 購入元:KindleStore
著者名:押井守 価格:※ストアでご確認ください

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 遅れ馳せのさらに3周くらいあとを走っていてライターとしては恥ずかしい限りだが、村上春樹の『1Q84』のBOOK3をやっと読み、もう忘れていたBOOK1と2の、あらすじが折り込まれていて春樹ってなかなか親切じゃんと見直したのだったが、それとは別に、実にシンプルな物語なのに、「リトルピープル」があのことだ、「空気さなぎ」がこういう意味だ、はては「空豆」を乗せたタクシードライバーは誰なのか、なんてかまびすしい謎解きがあちこちで行われていたらしく、仰天しつつ、人は込み入ったように見える話を根掘り葉掘りするのがほんとうに好きなんだとあらためて感じいった。たとえばデビット・リンチの映画を細部にわたって分解しようとするし、『エヴァンゲリオン』の枝葉末節を、「ロンギヌスの槍」が何をさすのか「人類補完計」が含むものはと、知恵を絞って意味づけしたがる。

 押井氏が“雑誌には書けないことを書く”ために始めた個人メールマガジンの書籍化した本書で、『エヴァンゲリオン』については、あれはただの「表層の戯れ」に過ぎない、庵野氏にはテーマもなければさしたる思想もない、なんて押井氏は喝破している。私もこの説に賛成だ。

 「表層の戯れ」というのは、言葉にまつわる多様なイメージを、しっかりした内容も考えないままに、オモチャのごとく乱れ使い、観るものをイメージの中に迷子にさせる、そんな表現のことだ。

 『エヴァンゲリオン』について書かれたこの章を読んで、メルマガの購読を止めた読者が多数いたらしい。庵野監督の悪口を言ったという理由とか。押井氏の思うつぼである。

 本書は毒舌の書ではない。極論を並べて読者を煽りわざと怒りを買おうとしている。「世界の半分を怒らせる」とはそういう意味だ。

 むかし立川談志が、「ほんとうのことをいわれると人は怒るものだ」とテレビで言っていて、これは真実で、正義や正論を吐くと、人は怒るから、なんとか世界の半分を怒らせてやれ、押井氏はそんなことも考えている。

 話題はオスプレイ導入問題から、AKB48襲撃事件までと、幅は広い。それらひとつひとつに、真実を自分の頭で探り当てるには、問題をもとのもとから順を追って考えていく必要があると繰り返し主張している。

 その考え方そのものはひどくまっとうで、あらゆる出来事の判断に適用できる有効性の高い手法だと思うが、押井氏の場合、出て来る結論は、こちらをあやまたず挑発するたぐいのものだから、なんかこう見事に手の平にのせられる感じだ。

 私もなんとか世界の半分を怒らせる原稿が書きたいものである。


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