過労死続出の霞ヶ関の闇に文科省のノンキャリ女子が迫る! 累計80万部突破 松岡圭祐著『水鏡推理6 クロノスタシス』

文芸・カルチャー

2017/7/19

『水鏡推理6 クロノスタシス』(松岡圭祐/講談社)

 加計学園問題、森友学園問題など、なにかと話題の絶えない文部科学省。一体何が真実なのか、誰が本当のことを言っているのか、霞ヶ関はその名のごとく、霞か靄が立ち込めているように不透明だ。明らかな情報も簡単に握りつぶす巨大組織に、たったひとりで立ち向かう人物———現実世界の前川喜平氏は事務次官だったが、松岡圭祐氏著の小説『水鏡推理』シリーズでは、ヒラのノンキャリ女子・水鏡瑞希が「文科省の闇」に迫ろうとする。

『水鏡推理』シリーズは、どの巻から読んでも楽しめる時事ネタを絡めた展開が話題を呼び、累計60万部を突破している大人気シリーズ。リアルすぎる内容に文科省から面談を求める連絡があったというほど、現実の世界とリンクした作品であり、読者はそのリアリティに圧倒される。STAP細胞問題の某氏がモデルと思われるキャラクターが出てきたり、震災や核融合発電をテーマとしたりなど、物語が現実世界と噛み合っていくさまには圧巻。元文部官僚で「ミスター文部省」と言われた寺脇研氏からも絶賛される今注目の推理小説だ。

 最新巻『水鏡推理6 クロノスタシス』のテーマは、「過労死」。『水鏡推理』は、著者・松岡圭祐氏の他の大人気シリーズ『万能鑑定士Q』や『特等添乗員α』と同様、“人の死なないミステリ”であったはず。だが、松岡氏は会社員や官僚などの「過労死」が相次ぐ現状を思い、このテーマで作品を描きたかったらしい。本書を開くと、すぐに、松岡氏からの異例のメッセージが目に入る。

本書は過労死について描いている その意味で「人の死なないミステリ」ではない 劣悪な職場環境による過労死が根絶されるよう強く願う

 世の中から過労死がなくならないのは、人間がいつでも自己を繕ってしまう生き物だからかもしれない。いかに自分が働きすぎて疲れていても、人には見せたくないと思ってしまう。もし、過労死リスクが数値化できる世界が訪れるとしたら…? 本作では、過労死のリスクを数値化して予防できる画期的新技術「過労死バイオマーカー」が、文科省研究公正推進室による最終評価段階を迎える。その正否を調査するのは、評価担当者・水鏡瑞希。過労死の実態を掴まないかぎり、正確な調査はできまい。周りの反対を押し切り、財務省の若手官僚の自殺の真相にせまる瑞希。次第に強まる圧力。しまいには、警察からも目をつけられることになり…。ブラック企業並みの劣悪な労働環境で働く霞ヶ関の職員たちを瑞希は救うことができるのか?

 本書のタイトルとなっている「クロノスタシス」とは、急に時計を見た時に秒針が止まっていると錯覚するように、視点移動にかかる時間の間隔を脳が埋めようとする現象のこと。忙しい日々を送り、統合失調症を発病するまでになると、眼球の移動距離が少なくなり、この現象が発生しにくくなるという。慌てて、時計に目をやるも、無事、止まってみえる秒針に、自分は健康だと自覚。「残念ながらまだ休めなそうだな」との思いが湧いた読者も多いことだろう。だが、過労は秒針を眺めるだけでは到底判定できない。組織に従順でい続ければ、過労死の運命が待つ。逆らえば、居場所がなくなる。そんな悲しい現実を前に、「過労死バイオマーカー」は、救いの一手となるのか。物語の登場人物たちは「過労死バイオマーカー」の結果に一喜一憂しては、その値に振り回されていく。

 瑞希は、科学研究に不正があるなら見過ごすまいと心にきめて仕事に励んできた。しかしこの世には、それ以外にも許せないものがある。人を過労死に導く上司を、のさばらせてはいけない。

 この物語は、ただのフィクションにとどまらないということは誰の目にも明らかだろう。虚構のはずの物語が、現実の文科省の混乱状況を映し出す鏡となっていく。

 ぜひ、最新巻を読んで、ワーカホリック気味のあなたもそうでない人も、この本を読んで、ほっと一息ついてみてはいかがだろうか。自分の働き方を改めて見つめ直すことができそうな一冊。

文=アサトーミナミ