推理作家はなぜ密室で殺されたのか? 天才犯罪学者が難事件に挑む、火村英生シリーズの記念すべき第一作!

文芸・カルチャー

2017/9/2

『新装版 46番目の密室』(有栖川有栖/講談社)

 ミステリ作家・有栖川有栖は長年にわたって2つの人気シリーズを書き継いできた。
 ひとつは英都大学推理小説研究会のメンバーが数々の事件に遭遇する江神次郎シリーズ(別名・学生アリスシリーズ)。そしてもうひとつが、犯罪学者・火村英生の華麗なる活躍を描いた火村英生シリーズ(別名・作家アリスシリーズ)だ。火村シリーズは昨年(2016年)、斎藤工主演のテレビドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』として映像化されたので、ご覧になった方も多いことだろう。

『新装版 46番目の密室』(有栖川有栖/講談社)は、その火村シリーズの記念すべき第一作だ。
 ある年のクリスマスイブ、推理作家の有栖川有栖(=アリス)は友人で犯罪学者の火村英生とともに雪の軽井沢を訪れた。ミステリ界の巨匠・真壁聖一の邸宅で開催されるクリスマス・パーティに参加するためだ。パーティに招かれたのは、真壁と親交のある作家や編集者など計7名。
 これまで密室もののミステリを45作も発表し、「日本のディクスン・カー」と呼ばれている真壁は、46番目となる次回作で密室ものを打ち止めにすると宣言、集まった客たちを驚かせる。
邸宅の周辺をうろつく不審な人影。パーティでの奇妙なやりとり。客室で起こったいたずら騒ぎ。じわじわと不穏なムードが高まりゆくなか、ついに惨劇は起こった。真壁が地下の書庫で殺されたのだ。さらに一階の書斎ではもう一体、素性不明の死体が見つかる。どちらも暖炉に上半身を突っこんだ状態で、部屋には内側から掛け金がかかっていた――。

 密室ミステリの巨匠が密室内で殺される、というあまりにも不可解な事件。駆けつけた群馬県警の捜査員に協力し、火村とアリスは捜査を開始する。殺人犯は関係者のなかにいるのか。複雑なパズルを解く糸口はどこにあるのか。そして火村が導き出した最終結論とは?
 本格ミステリの王道を歩んできた著者らしく、本作でも解決にいたる筋道はいたってロジカルかつフェアなものだ。大小の伏線があるべき場所にぴったり収まり、唯一の解が浮かび上がる数学的な美しさは、本格ミステリでしか味わえない興奮がある。解決への手がかりは火村と同等に読者にも与えられているので、我こそはという方は7章まで読んだところで一旦本を閉じ、真犯人の名と殺害方法を推理してみてほしい。

 さらに火村とアリスの絶妙なコンビネーションも、大きな読みどころだろう。皮肉とユーモアをたっぷりまぶしたセリフの応酬からは、2人の親しさが伝わってきて、微笑ましい気分にさせられる。ドラマ版では斎藤工と窪田正孝がコンビを演じて女性ファンを歓喜させたが、あの親密な関係性は基本的に原作から引き継いだものだ。
 ほかにも真壁の口から語られる推理小説論(「天上の推理小説」という美しいイメージが提唱される)がなんとも刺激的だったり、胸躍るクリスマス・ストーリーの側面を備えていたりと、ストレートな謎解き小説でありながら、さまざまな楽しみ方ができる豊かな物語。がちがちの本格ミステリが苦手という人でも、きっと引き込まれてしまうだろう。

 今年で30周年を迎える新本格ムーブメントは、実に多彩な名探偵を生み出した。火村は間違いなくそれを代表する一人だろう。現代日本と対峙するシャーロック・ホームズ、火村英生の輝かしき経歴のスタート地点としても、本作『46番目の密室』は貴重な作品となっている。

文=朝宮運河

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