「諦めても、終わらせてもらえない試合だってあるんだよ。人生とかね」―体操のお兄さんの裏の顔を描いた話題のギャグマンガ『うらみちお兄さん』

マンガ

更新日:2017/11/6

『うらみちお兄さん』(久世岳/一迅社)

 読み終わってから、表紙のカラフルな色合いと、うらみちお兄さんの満面の笑みを見ると、悲しさやそこはかとない恐怖を感じるようになると話題沸騰中のギャグマンガ『うらみちお兄さん』(久世岳/一迅社)。

「第3回次にくるマンガ大賞(webマンガ部門)」第1位&「WEBマンガ総選挙(インディーズ部門)」第1位を獲得した、今一番注目を集めているWEBマンガである。

 子ども向け番組に出演する「体操のお兄さん」の表田裏道(おもたうらみち)は、黒い一面がチラホラと垣間見えるアラサー男性。

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 うらみちお兄さんは、社会に疲れている。独身。彼女無し。人生に潤いを感じない。小さな幸せを見いだせない。毎日出勤して、偉い人に媚びを売って、ただ生きるだけの日々をしんどいと感じている。

 ネガティブというより、「あきらめ」の域に入っている、うらみちお兄さんの内面の「暗部」と、子どもたちを前に明るく振るまう「表面」のギャップが、とにかく笑える。あなたが「明日も仕事か……」とベッドの中で沈んだ気分になるのなら、大いに共感するだろう。はたまた、うらみちお兄さんの「闇」に触れて、寂しくなる瞬間があるかもしれない(うらみちお兄さんはいつからこうなったんだろうか……)。

 現代社会に息苦しさを抱えながらも、結局は社会の中でしか生きていけない人間の矛盾。悲しい性さえ感じる(ギャグマンガです)。

 さて、ギャグの内容を説明するのは難しいので、本記事では現代人の胸に刺さる「うらみちお兄さん語録」をご紹介したいと思う。

ノリ気じゃないことにも全力で取り組むその姿勢。
就職活動の時とか絶対に役立つから大事にしようね!

諦めても、終わらせてもらえない試合だってあるんだよ……。人生とかね……。

起こった事象とそれに対して感じるはずの喜怒哀楽が……
いまいちリンクしてない感がある……。

意味がわからない。でも目上の人の言うことにはわかった振りをしなければならない。
それが大人だから。

「大人になったら思いのままにしたいことができるんだ」と自由という壁の内側で希望を抱いた少年時代……。いざ壁を乗り越え大人になった先で壊滅的に不足しているバイタリティ。
自分だけが窮屈なのではと感じているよい子のみんな!
大丈夫!! 泳ぐ水槽は狭すぎても広すぎても死んじゃうからね!
世の中が上手く調整してくれてるんだね!

「こんなことは自分のやりたいことじゃない」。特に何もやりたいことのない人間が最もよく言う言葉だよ……。

 いかがだろうか? 胸に迫るものがないだろうか?

 何度も言うが、本作はギャグマンガである。

 うらみちお兄さん以外にもリアリティ溢れる個性豊かなキャラクターたちが登場する。

 有名音大を卒業しながらも、いまいち大成せず、現状に甘んじているアラサーの歌のお姉さん(売れないお笑い芸人と付き合っている)や、飛びぬけたルックスを持つ元ミュージカル俳優でありながら低レベルな下ネタが大好き、アナログ時計がいまいち読めない残念な歌のお兄さんなどなど。明るい子ども向け番組の裏で、出演者たちが抱える「闇」が一層深まる。

 ちなみに、1巻発売記念に制作されたPVがYouTubeで視聴できる。うらみちお兄さんに声を当てているのは人気声優の神谷浩史さん。うらみちお兄さんの表と裏を素晴らしく面白く演じ分けているので、こちらも必聴だ!

文=雨野裾