不妊治療、妻との喧嘩…お父さん目線のあけっぴろげな育児エッセイがおもしろい!―― 小山健『お父さんクエスト』

出産・子育て

2017/10/20

『お父さんクエスト』(小山 健/ポプラ社)

 世の中に、マンガでも文筆でも育児エッセイが溢れているのは、どこにも正解なんてないからだと思う。生まれてきた命に負わなくちゃいけない責任の重圧にくらべて、自分たちの行動の是非に対する心もとなさといったらない。と、子供を産んだことのない身でさえ思うのだから、当事者たちはよっぽどだろう。だから作者たちはみんな「こういうケースもありますよ」と世に放つ。正直、どうしてみんな育児エッセイを描くんだろう、もう十分すぎるほど作品はあるのに、と疑問だったときもあるのだけど(視野狭窄)、もしかしたら「正しいかどうかなんてわからないけど、それでもどうにかこうにかやれているし、きっと大丈夫ですよ」という気持ちを、みんなと共有したいのかもしれないなあと『お父さんクエスト』(小山 健/ポプラ社)を読んで思った。

 お父さん目線で描かれるエッセイは、お母さん側とまたちがう意味であけすけだ。本作はまず「セックスレスのせいで不妊」「理由は、最近のAVが充実しすぎているから」とあけっぴろげに語るところから始まる。自分の夫にいわれたらぶん殴りたくなるだろうなと思ったけれど、あまりにあけっぴろげで、堂々としていて、むしろちょっと笑ってしまった。けれど意を決して不妊治療をはじめた結果、小山夫妻は娘を授かる。不妊治療に至るまでもさまざまな葛藤があっただろうが、ここからが本当の「クエスト(探検)」のはじまりだ。明確な地図のない世界を、家族で生き抜いていかなくてはいけない。

 とはいえ、娘が生まれたからといって、人格が急に変わるわけではない。誘惑に弱かったり、めんどくさがりだったり、詰めが甘かったり。元来持っている弱点はそのままだ。おまえの育児エッセイはおもしろくない、安パイに落ち着くにははやすぎる、と友人に挑発されて、女の子にエステしてもらいに行くし、あいかわらずスケベ心は消えない。育児には積極的に参加するが、空回りすることも多いし、ときには妻と喧嘩もする。それでも娘を守るため、家族みんなで生きていくために、無理せずゆるやかに、ひとつひとつクエストをクリアしながらお父さんとして成長していくのだ。

 しょうもない姿も堂々とさらす小山氏は、嘘がなくてある意味でとても誠実だ。それをなにより感じたのは巻末に収録されていた妻・さち子のインタビュー。意外と亭主関白で、育児のしかたもどこか雑で。頑固で、妻の意見なんてほとんど聞いてくれない。おなじ家庭の話でも、視点が変われば見え方も変わる。そのズレがインタビューからはわりと大きく浮き彫りになるのだが、その両面を一冊に収録するってなかなかできることじゃないと思うのだ。だって「あんだけわかったようなこと言っといておまえ」って言われるおそれもあるわけだし。ズレは必ず生じるし、不満だってお互いなくならない。それでも折り合いをつけながら、譲りあって尊重しあって、ときに喧嘩して。自分たちだけの方法で前に進むすべを見つけていくのが家族なのだなあ、と最後の最後まで思わされたのだった。育児経験者ならずとも、パートナーとの関係をも見直させてくれる一冊だ。

文=立花もも