ゴジラよりバイオハザードより恐ろしい、最悪の女!? 読む劇薬・野崎まどが描く前代未聞のエンタメ『バビロン』

文芸・カルチャー

2017/12/16

『バビロン』(野崎まど/講談社)※崎は正しくは「たちさき」

 サブタイトルに「終」とついているから、てっきり解決をみせてくれると思ったのに、ちょっと待ってよそういう意味かい! いい加減にして! と著者の野崎まどさんに思わず苦情を入れそうになる小説『バビロン』(講談社)。いやなんかこれすごいんだけど、よくわかんないけどとにかく読んで……お願いこの気持ち共有して……と崩壊した語彙力で、手あたり次第に1巻を進呈してしまいそうになる。とりあえず1巻さえ読んでくれれば既刊すべてに手を伸ばさずにはいられないだろうと自信をもって断言できる作品だ。

 とにかく先が読めないのである。
 東京地検特捜部の検事・正崎善(せいざき・ぜん)を主人公に据えた第1巻は、製薬会社の不正事件を追ううち、やがて大型選挙をめぐる政治家たちの陰謀が明らかになっていく……ほうほう、社会派ミステリーなのね、と素直に信じていた時期もあった。いやもちろん今だってそうじゃないとは言わないが、まさか世界を巻き込む善悪戦争に至る布石だなんて誰が思っただろう。

 日本のとある地域で施行された、自死の権利を認める「自殺法」。その設定だけでも度肝を抜かれるが、“法に許された人間の権利”として喜び死んでいく人間が次々現れるのだからその驚きといったら形容しがたい。64人の老若男女の集団投身自殺。増え続ける犠牲者、と呼んでいいのかはわからないがとにかく死者。その陰で暗躍する人間が、問題で。
 曲世愛。これがまあ、“最悪”としか呼びようのない女なのだ。
 一声かけるだけでどんな人間も自殺へといざなうことができる、摩訶不思議な能力をもつ彼女。彼女のせいで、かけらも死を求めていなかった人が、みずから恍惚のなかで命を絶っていく。もやはバイオハザードだ。バイオハザードならだれか研究者が対処してくれるだろうが、曲世の場合は成敗しようと近づいた先から死に導かれてしまうのだから打つ手がない。

 とりあえず強制的に読ませた友人からは、1巻読了後に「なんてものを読ませてくれたんだ!」と苦情のLINEがきた。そのくせ2巻をすかさず奪っていった友人からは、ほどなく「まがせ!!!!!ひどい!!!!!!!!」とこれまた語彙力皆無のLINEが届いた。さらには発売前の3巻ゲラを入手した我が家に乗り込み、部屋の片隅で読みふけったあとこう言った。「最悪じゃん!!!!!」
 実話である。ときどき仕事ということを忘れて友人と共有したくなる小説があるが、本作はまさにそれだ。この読後感、ひとりで抱えるには耐えきれないほど重い。ていうかまさに最悪の気分にしかならない。それなのに続きが出れば読んでしまうのだから野崎まど氏どうしてくれようと拳を握るほかはない。

 いちおうあらすじをお知らせすると、曲世の脅威は3巻でついに日本を飛び出し、アメリカ、イギリス、イタリア、フランスと全世界へと及び、恐慌事態に陥れる。近づくだけで死んでしまうなら、彼女を殺す以外に解決の道はない。だがそれこそ彼女たちの“悪”を肯定することにならないか? はらはらしながらようやく救いが見えてきて、ほっとしかけたそのときに突き落とされるふたたびの絶望。マジで!!最悪!!!!!野崎!!!!!!(呼び捨てごめんなさい)
 ハラハラが増して動悸の激しさにこちらの心臓が止まってしまいそう。いったいこの事態にどう落ちをつけるのか。我々にできるのは続刊を待つことだけなのである。

文=立花もも