「棄」は子どもとの悲しい別れ…知ればきっと泣いてしまう漢字にこめられた人間ドラマ

ライフスタイル

2018/1/24

『本当に泣ける漢字の本』(出口 汪:監修/水王舎)

 普段、何気なく使っている漢字。それらの起源や隠されたエピソードの中には、涙なくしては語れない、人の優しさ、切なさ、愛、別れなどが詰まったものがある。『本当に泣ける漢字の本』(出口 汪:監修/水王舎)では、思わず泣ける漢字の由来をマンガでわかりやすく紹介している。

■「伏」は寄り添って離れようとしない愛犬

「伏」という漢字は、体の正面を地面にぴったりとつける、年長者や上司などにしっかりと従う、人の行動に感心するといったような意味がある。この「伏」は「人」と「犬」が組み合わさったもので、飼い主にぴったりとくっついて離れない犬の姿を表しているという。1万年以上前から、人は犬を家畜として飼ってきた。猟犬や番犬、そして家族の一員として、はるか昔から犬は人に寄り添ってくれている。人と犬の関係に由来する「伏」、いつもそばにいてくれる飼い犬に感謝したくなる漢字だ。

■「棄」は子どもとの悲しい別れ

「棄」という漢字は、要らないものを捨てること、人を見捨てることなどの意味がある。「棄」は漢字の上部は生まれたばかりの赤子、その下の部分はカゴとそれを持つ両手で遠くへ押しやる形をしている。つまり、この漢字は生まれたばかりの子どもを棄てる様子を表しているのだ。それだけ聞くと残酷で、怖い漢字に思えるかもしれない。しかし、この漢字が生まれたのは現在よりずっと昔、生きるのが難しかった時代だ。戦いや飢餓など、自分では避けられない不運に巻き込まれ、お腹を痛めて産んだ赤ちゃんを泣く泣く手放す母親もいた。誰か裕福な人に拾われることを祈り、愛ゆえの決断で離れた母子もいたことだろう。そのことを思うと、胸がせつなく悲しくなる漢字だ。

■切なくてかなしい漢字「哀」と「悲」

「可哀想」「悲哀」「哀愁」など、「哀」という漢字はせつない言葉によく使われている。「哀」は「包んで隠す」という意味を持つ「衣」という部首と、その上に「口」が挟まれた漢字だ。だから、「哀」は衣で口を隠し悲嘆にくれる姿、「口に出したい思いを隠す」というのがその成り立ちである。この「哀」と似た意味を持つ漢字に「悲」がある。「悲」という漢字は「非」と「心」が組み合わさってできていて、上部の「非」は羽根が左右まっぷたつに割れるさまを意味している。すなわち、心が激しくさけてしまうような切ない思いを表しているとされているのだ。「哀」と「悲」の漢字はその成り立ちから、「悲」は目に見えてわかるほどのかなしみ、「哀」は心の中にある思いを秘めたかなしみを表していることがわかる。かなしいといっても、そのときの状況、人によって感情の表し方はさまざま。その細やかな違いをくみ取って、生み出された「哀」と「悲」という漢字からは古代の人々の感情が垣間見える。

■怖くて泣けそうな漢字「道」や「取」

 漢字はつくられた時代の人々の思いが反映されたものがほとんど。その中には、怖くて泣いてしまいそうな部首やつくりが使われていることもある。たとえば、「道」という漢字は、字の中に「首」が入っているが、これは人の首を持って歩く人の姿なのだという。古代の風習に異民族の首を集落のはずれに埋めると魔除けになるというものがあり、「道」はその様子を表している漢字なのだ。そのほかにも「取」という漢字には「耳」が入っている。これは、戦いが絶えない時代、自分の戦功を証明するために勝者は敗者の耳を削ぎ落して取ってきた。その様子からできた漢字が「取」なのだ。残酷な風習やならわしから生まれた漢字は、聞くだけで怖くて泣いてしまうものも少なくないのだ。

 漢字には出来上がるまでにストーリーがあり、意味がある。現代人の感覚からするとギョッとすることもあるかもしれないが、古代の人たちの感情が反映された漢字を知れば、意外な発見や感動に出会えることだろう。

文=なつめ