思春期って、甘くて、苦くて、死にたくなる。短歌で綴った熱い夏の7日間

文芸・カルチャー

2018/2/12

『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(木下龍也・岡野大嗣/ナナロク社)

「三十一文字」と書いて、「みそひともじ」と読む。かな文字で、五、七、五、七、七の31文字から1首が成り立っていることから、短歌、和歌を、このようによぶことがある。古の時代には、歌を詠むことは貴族などの教養人たちのたしなみのひとつとされており、当時は知識人の間で歌会が催されたり、男女が歌を詠み交わすことによって心を通じあわせたりもした。今のようにメール、ライン、SNSなどがない時代、歌を詠むことは、コミュニケーションを交わすひとつの重要な手段とされていたのだろう。

 現代では、プロの歌人、趣味で歌を詠む人、歌を鑑賞する人以外には、短歌はあまりなじみがないかもしれない。そんな中、今まであまり興味がなかった人にも、手に取ってもらいたくなるような歌集に出会った。

『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(木下龍也・岡野大嗣/ナナロク社)は、今、最も注目の新世代歌人ふたりの初の共著となる。ふたりの歌人が、ふたりの男子高校生になりかわり、夏の7日間を短歌で描く物語という設定だ。ふたりがそれぞれに放つ、全部で217首の短歌以外、物語の背景の説明は一切なく、「はじめに」も「あとがき」も「解説」も本書には存在しない。7日の間に何が起こったのか、ふたりの高校生がどんなことを考えたのかは、読者による歌の解釈に委ねられている。

ゆらぐ、青春

体育館の窓が切り取る青空は外で見るより夏だったこと
Googleに聞いてもヒット0だったからまだ神にしかバレてない
串カツになってソースに沈められきみの奥歯で何度でも死ぬ

若さゆえの、濁り

しあわせになりたくないと書きましょう願ったことは叶わないから
愛(業務用)をください。愛(家庭用)はだれかにあげてください。
いま死ぬかいずれ死ぬかの違いだとその他二億の精子は言った

「僕」に何があった

うかびあがる容疑者像の輪郭をなぞれば、なんだ、僕そっくりだ
誰のことも疑いたくない担任に招かれるまま教頭室へ
未来が僕を問い詰める警察のシャツの色した空の真下で

 もし、男子高校生の7日間のストーリーが明らかにならなくても、大丈夫。本書は、短歌ひとつひとつを読み解くことでも充分楽しむことができる。それに加えて、挿込特典として、舞城王太郎氏のスピンオフ小説2篇がついてくる。

 短歌は、人によってどれを好むかは十人十色。キラキラ輝いていて、繊細で、不安定かつ絶望的な「思春期」という特別な時期を歌った本書の200余首。ほんのひととき、大人であることを忘れてしまってもよいかもしれない。

文=銀 璃子