構想10年、東野圭吾の名作『夢幻花』! 禁断の花「黄色いアサガオ」を巡る衝撃のミステリ

文芸・カルチャー

更新日:2018/6/18

『夢幻花』(東野圭吾/PHP研究所)

「花は咲く。人は書く。自分自身になりたいがために」という言葉がある。しかし、自分の決めた道を邁進し続けるのは簡単なことではない。惹かれてやまない道があったとしても、その道を突き進むのが正しいこととは限らないし、自分に向いているとも限らない。どの道を選ぶべきなのかとあれこれと思い悩むのが、人間の性だ。

 構想10年。著者・東野圭吾氏が「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」という小説『夢幻花』は、将来に不安を抱える若者にこそ読んでほしい希望の物語。単行本・文庫累計100万部を突破したこの物語のキーとなるのは、この世界から消滅したとされる「黄色いアサガオ」。それは、「追い求めると身を滅ぼす」といわれる禁断の花だった。

 オリンピックを目指すほどの水泳の実力がありながら、ある事情から水泳をを辞めてしまった大学生・秋山梨乃。彼女は、自殺した従兄・鳥井尚人の葬儀をきっかけに、祖父・秋山周治の家を定期的に訪ねるようになっていた。花を愛でながら悠々自適な老後を送る周治。

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 しかし、ある日、梨乃が祖父の家を訪ねると、周治は何者かによって殺されていた。先日梨乃が訪れた際には、周治は庭に黄色い花が咲いたのを喜び、「この花のことは絶対に秘密にしておいてほしい」と言っていた。その黄色い花が消えていることに気づいた梨乃は、ひょんなことで知り合った大学院生・蒲生蒼太とともに、事件の真相と花の謎の解明に向けて動き出す。花は、どうやらアサガオらしい。

 しかし、黄色いアサガオは、この世に存在しないはずの花。一体どこから周治は「黄色いアサガオ」を手にしたのか。この事件の裏には何があるのだろうか。

 この物語は、梨乃の物語であると同時に蒼太の物語でもある。昔から家族に対して疎外感を抱いていた蒼太。特に苦手としていた警察庁に勤める兄・要介は、なぜか身分を隠してまで、「黄色いアサガオ」の秘密を追っているらしい。兄はなぜ「黄色いアサガオ」にこだわるのか。次第に蒲生家が背負う宿命がつまびらかになっていく。

「世の中には負の遺産というものがある。それが放っておけば消えてなくなるものなら、そのままにしておけばいい。でもそうならないのなら、誰かが引き受けるしかない」

「あたしたち、何だか似てるよね。一生懸命、自分が信じた道を選んできたはずなのに、いつの間にか迷子になってる」

 将来への悩みを抱えていた梨乃と蒼太は、事件の謎に迫りながら成長していく。その姿はなんと清々しいことだろう。謎が解明した時、彼らはどんな決断をするのだろうか。

 禁断。宿命。家族への愛…。バラバラの点がひとつの大きな像を描き出していくこの感覚は、東野圭吾作品だからこそ味わえる快感。この爽快感は、あなたの胸のモヤモヤもきっと晴らしてくれるに違いない。花に関わる宿命をおった者たちが織りなすこの物語は、東野ミステリの真骨頂だ。

文=アサトーミナミ

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