胸キュンと切なさと……「無性にときめきたい」全国の女性に捧げる、 新人教師と女子高校生の淡い恋愛小説

文芸・カルチャー

更新日:2018/7/31

『東校舎、きみと紡ぐ時間』(桜川ハル/スターツ出版)

 この小説にときめかなかったら、何にときめくのだろう?……というくらい、「胸キュン」が詰まった新米教師と女子高校生の恋愛小説『東校舎、きみと紡ぐ時間』(桜川ハル/スターツ出版)。

 高校生の咲楽愛子(さくら・あいこ)は、新米教師の小寺一平(こでら・いっぺい)に恋心を抱いている。小寺は、生徒たちから「イッペー君」と呼ばれ慕われている人気者だ。

 気さくで明るく、ちょっとドジで無遠慮に見えて優しくて、子どもみたいな性格なのに、タバコを吸ったり、ふとした拍子に「大人の男性」である瞬間が垣間見えたり……いつの間にか、そんなイッペー君を好きになってしまった愛子は、親友にもその想いを秘密にしていた。

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 しかしイッペー君には、どうやら青春時代に悔いを残していた恋愛があるようで……。その人のことを、まだ好きなのだろうか? 愛子は悩みながらも、気持ちが抑えられず、つい「好きだ」と言ってしまう。

 だが、教師であるイッペー君が、自分の告白を受け入れてくれるはずもなく、微妙にごまかされて、あいまいに流されてしまった。

 自分の一世一代の告白を、たいして動揺もせずにかわしたイッペー君に、「ほんのちょっとでいいから、イッペー君の心にひっかき傷みたいなものをつけてやりたい」と、愛子は「決めた! わたし、勝手に好きでいる!」と宣言。

 それから、愛子とイッペー君の「ときめき」と「胸キュン」と「じれったさ」と「歯がゆさ」が詰まった青春の物語が始まるのだ。

 本作は「胸キュン」のギミックがいっぱい詰まっていたと思う。「新人教師と女子高校生」というだけでも、もう既にときめく人もいるだろう。あとは、2人だけの秘密の場所があったり(東校舎の立ち入り禁止の教室)、お姫様抱っこや壁ドンだったりと、そういう「よくある(けど、それがいい!)」という王道胸キュン展開もしっかり押さえられている一方で、本作ならではの「ときめきギミック」も盛りだくさんだった。

 ガムの包装紙だったり、「I LOVE YOU」を直訳せずに、日本語訳にしてみるという課題だったり、色鬼だったり……。

 そう言われても「何のこと?」とみなさんは思っているだろうが、ネタバレになってしまうので詳細は伏せておく。とにかく、ときめいた。「こんなことをされたり、こういう展開になったら、そりゃ胸キュンするわ!」という展開が、全編を通してずーーっとあるのだ。

 もちろん、そういう「ノリ」だけではなく、「教師と生徒」という壁(困難)に対して悩む愛子とイッペー君の心情も丁寧に描かれているので、胸キュンしながらも惹き込まれる物語になっている。

 同じクラスの男子に「げんなり」している女子中高生、お仕事でお疲れのOLさん、白馬の王子様を待っている婚活女子……年齢、仕事問わず、「無性にときめきたい」全国の女性に読んでもらいたい。

文=雨野裾