最後の伏線回収で“ゾワッ”『クリーピー』作者の原点、鳥肌が立つミステリー

文芸・カルチャー

2018/8/12

『深く、濃い闇の中に沈んでいる』(前川 裕/文芸社)

 うだるような暑さが続き、夜な夜な“ゾワッ”とくる涼しさを欲する人も増えてくる季節柄。幽霊ももちろん怖いのだが、やはりいちばん怖いのは「人」だと筆者は思う。怨念、恨み、憤り、悲哀、執着…。ある状況に置かれた人物が抱くそのような感情は、かなり危険で、悲しく、恐ろしい。

『深く、濃い闇の中に沈んでいる』(前川 裕/文芸社)というミステリー小説は、まさにそんな恐怖感を得られる1冊だ。後に映画化もされた『クリーピー』(光文社)で第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞している作者の、デビュー前の作品2作を文庫化した本書は、彼のミステリーの原点とも言える。

 本書には、「人生の不運」「人生相談」の2作品が収録されている。どちらも全体的にじめっとしていて暗い、硬質な文体で物語が進んでいく。読んでいるその先の展開を知るのが怖くなり、胸騒ぎが起こるような文章に終始ゾワッとする。

「人生の不運」は、ひとりの女性の死を巡る物語だ。軒を接するように建っているふたつの借家。その片方に住んでいた女性が死んだ。警察は自殺で片づけ、それで終わるはずだったが、隣に住む大学院生の主人公は自分が何かを知っているのではないかと思いこむ。「気づかぬところで他人の人生を変えてしまう可能性は誰にでもあるのだ」ということに気づかされるラストは、背筋が凍る。

「人生相談」は、新聞やテレビ、ラジオなどの人生相談コーナーにひたすらでっちあげの相談を送り付ける男の描写から始まる。ありとあらゆる悩みのストーリーを作り上げ、小説家さながらの情熱でリアリティを追求する男。その不気味すぎる行為の原因は何なのか。それを明かすように男の暗すぎる過去が徐々に明らかになる。そして男は一線を超えてしまう。「最も怖いのは人間」ということを痛感させられる話だ。

 失って初めて気づく愛しさ。かつて空間を占め、いまやぽっかりと空いた存在の声が響きわたり、消すことのできない痕跡が生まれる。全体的に不気味で暗い空気の漂うなか、ふたりの男の複雑な喪失感が巧妙に描き出された本書。人間のリアルな怖さを味わいたい方には打って付けの1冊だ。

文=K(稲)