心理学の観点から子どもの「いやだ」「こわい」を克服する絵本

出産・子育て

公開日:2018/9/22

『だいじょうぶだよ、モリス』(カール=ヨハン・エリーン:著、中田敦彦:訳/飛鳥新社)

 子どもにとって、初めて食べるものは「いやだ」、いつもと違う場所は「こわい」。これをそのまま放っておくと、これからの人生の障害物になってしまうのではないかと心配になります。

 余談ですが、筆者の弟は小さな頃から嫌いな食べ物が多く、大人になってからも、楽しいはずの外食で苦労することが少なくありません。子どもの将来、苦手な食べ物は少ないほうがいいだろうし、新しい環境に強いほうがあらゆる場面で有利になりそう。でも、子どもの「いやだ」「こわい」をなくすことはできるのでしょうか。そして、そのための方法とは?

 その答えを教えてくれるのが、『だいじょうぶだよ、モリス』(飛鳥新社)です。本書は、スウェーデンの行動科学者、カール=ヨハン・エリーン氏が、心理学的な観点から、子どもの不安な気持ちをなくすための方法を教えてくれる本。

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 しかも、実証済みの信頼できる方法で。読んでみてわかったのは、ネガティブな感情を子どものうちに取り除くことは可能で、むしろ子どものうちから訓練することが大事だということ。好き嫌いは、若いころの経験や知識、文化などのあらゆる要素から決められ、大人になってからも影響をおよぼすからです。

■子どもの「さみしい気持ち」を取り除くには?

 心理学といっても、本書はカラフルな絵と平易な文章で構成されていて、ある程度の会話ができるようになった子どもなら、親子で読むこともできます。登場するのは、新しい保育園に通うことになったモリス。月曜日から日曜日までの1週間で、モリスはさまざまな経験をします。その中で感じた「いやだ」「こわい」という気持ちを、どうやって乗り越えたのでしょうか?

 火曜日、モリスは新しい保育園に着いてから、前の保育園の友だちのことを思い出し、泣いてしまいました。それを見た先生はこう言います。「目の前に、以前のお友だちの写真があると思って見てごらん」。写真が思い浮かんだら、それを手に持って心の中にしまい、今度は新しい保育園の友だちと楽しく遊んでいる写真を同じ場所に置きます。モリスはしばらくその写真を眺めた後に、「新しいお友だちと遊んでくる!」と言いました。「さみしい気持ち」を見事に乗り越えたのです。

■イメージを置きかえて、気持ちをガラッと変えてみよう

 本書によると、私たちの記憶は「方向づけ」られていて、「好きなもの」はあるひとつの方向に、「嫌いなもの」はまた別の方向に並んでいるのだとか。だから、その物事のイメージを置きかえるだけで、気持ちをガラッと変えられるといいます。モリスはこの方法を試したことで、以前の友だちと遊んでいるイメージを、新しい友だちと遊んでいるイメージに置きかえ、そこで楽しそうにしている自分の姿を見て安心したのでしょう。以前の友だちも、モリスの心の中でいつも笑っています。

 筆者の2歳になったばかりの息子は、モリスのような転園とは違いますが、保育園に行きたくないと言って大泣きすることがあります。必死で説得しますが、なかなか泣き止まず…。保育園の友だちは大好きだけど、そこにお父さんやお母さんがいないのは「いやだ」と思ったのでしょう。まだ会話ができる年齢ではありませんが、いつかできるようになったら、家族と楽しく遊んでいるイメージを、保育園の友だちと遊んでいるイメージに置きかえてみよう。そうすれば、いつでも家族が一緒にいられる——そんな会話をしてみたい、と考えることができました。

 実際、本書の発売前のモニター調査では、「初めての児童館に行った時に不安を感じて入りたがらなかったのですが、この本にあったように一緒になって遊びながら気分を変えたことで自分で靴を脱いで館内に入ることができました」という驚きの声があったそうです。

■“一生もの”の考え方を子どものうちに身につける!

 モリスは他にも、「新しい環境への不安」「虫など苦手な生き物」「けがや痛み」「苦手な食べ物」「暗闇への恐怖」を次々と乗り越えていきます。驚いたのは、最後の日曜日に、今度はモリスがこれまでに学んだ方法で、周りの友だちや大人を助けるまでに成長したこと。たったひとりでも、不安な気持ちに対処できるようになったのです。モリスのようにスムーズにいかない子も中にはいますが、効果を信じて忍耐強く向き合い、いざ活用したら、周りの大人もしかるべき対応をする。そうすることで、大人になってからも役立つ、一生ものの知識が身につくといいます。

 この本は、寝付けない子がコロリと眠ると好評の『おやすみ、ロジャー』シリーズ第3弾で、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが初めて翻訳を手がけていることでも注目が集まっています。心理学という難しそうなテーマなのに、中田さんの訳文によって読みやすくなり、中田さんによるあとがきでは、我が子に置きかえやすいヒントも綴られています。また、“外国の絵”に最初は違和感があるかもしれませんが、楽しいことが大好きでちょっと泣き虫なモリスのことが、いつの間にか「可愛いなあ」と感じられて、また読み返したくなるから不思議。繰り返し読んで、お子さんの日常にあるネガティブな感情をなくし、健やかな心を育んであげられるといいですね。

文=吉田有希