美少女に、“15分1万円のバイト”を持ちかけられたら…!? 怪しい仕事の真の目的とは

文芸・カルチャー

2018/9/25

『「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。』(隙名こと/ポプラ社)

 15分で1万円のバイトに興味はありませんか? クラスメートの美少女から、突然そう聞かれたらなんと答えるだろう。興味がない、わけがない。だがあやしい。あやしすぎる。美人局の一種か、はたまた詐欺行為の勧誘かと警戒するのがふつうだ。友達のいない、地味な男子高生・駒田くんも当然迷ったが、好奇心と下心が打ち勝ち、不審な誘いに乗ることにする。それが第7回ポプラ社小説新人賞〈特別賞〉を受賞した『「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。』(ポプラ社)の始まりだ。とても長いが、それが小説のタイトルである。

 物語の出だしはひどくポップで、もの悲しい。駒田くんは小学生のとき父親を事故で亡くすのだが、その原因がなんと“頭上に亀が落ちてきた”から。不幸な偶然が重なってマンガのような死を迎えた駒田くんのお父さんは、ネット上で笑いの種となった。

〈どんなに物珍しいコミカルな死に方だろうと……死は、死だ〉〈「人が死ぬ」って怖い。すごく怖い。眠れなくなるぐらい、怖い。〉

 大好きな父を失った悲しみと、世間の反応との乖離は駒田くんを深く傷つけ、それ以後他人と深く関わるのを避けるようになる。だが、揶揄した人々を“心ない”と断じることが我々にできるだろうか。ネット上で目にした、現実感のない他人の不運と不幸を、「ウケる」と笑ったことは一度もないだろうか。今後も絶対に笑わないと、果たして誓えるだろうか。むしろ他人は、心があるから簡単に笑ってしまうのだ。自分基準の喜怒哀楽を無抵抗にさらしてしまう。SNSという、現実に重なっているようで乖離した便利なツールを使って。

 一方で、水品さんは笑わない。私が笑ったら、死にますから。と、タイトルどおり駒田くんに言う。その言葉の裏に隠されていたのは、駒田くん以上に悲惨な過去と、駒田くんだからこそ寄り添うことのできる絶望だった。

 偶然と不運で、人はあっさり死んでしまう。父との別れを経て駒田くんは痛感した。それは災害続きの近年とくに、みなが切実に抱えている怯えではないだろうか。デビュー作となる本作で、著者は、この世界のそこかしこにひそんだ悪意に対する怒りや悲しみをあらわにし、読者に問いかけている。誰も理不尽に傷つきたくなんてない。わけもなく――いや、たとえわけがあったとしても、人が人を一方的に傷つけるなんてことが、あってはならない。なんでもかんでもSNSのせいにはしたくないが、他者を攻撃することに鈍感になっている人々に対して、無自覚に加害者になっているかもしれない我々に対して、警鐘を打ち鳴らしているような気がする。

 それはひどく青くさくて、純粋で、そして誰も見失ってはいけない倫理だ。

 原因はちがえど似た傷を負った2人は、“15分で1万円のバイト”を通じて惹かれあい、ともに再生していく。その過程に心はじくじく痛むけれど、同時に、小さな奇跡が起きる世界の美しさも信じたくなる、そんな小説だった。

文=立花もも