2019年本屋大賞ノミネート!伊坂幸太郎『フーガはユーガ』―― 誕生日に瞬間移動する双子の不思議せつない物語

文芸・カルチャー

更新日:2019/2/20

『フーガはユーガ』(伊坂幸太郎/実業之日本社)

 以心伝心。一心同体。そんな強い絆に結ばれた仲間がこの世界にひとりでもいれば、私たちはきっと残酷な運命も乗り越えていける。伊坂幸太郎氏の『フーガはユーガ』(実業之日本社)は、強い絆で結ばれた双子の、ちょっぴり不思議でなんだか切ないミステリー小説。この作品は、伊坂幸太郎氏にとって1年ぶりの新刊であり、伊坂氏の初期作品を思わせるような、「原点回帰」ともいえる「悲しいけど、優しい」物語だ。

 主人公は常盤優我。彼は、仙台市内のファミレスで、ひとりの男に向けて語り始める。父親から暴力を受けながら育った幼少時代のこと。同じ顔をした双子の弟・常盤風我のこと。今まで乗り越えてきた困難のこと…。

 伊坂幸太郎氏といえば、“地上から数センチ浮いた”日常で起こる不思議な出来事を物語に描いてきたが、今回の作品では、主人公の双子・優我と風我に特殊能力が備わっている。2人には、1年で誕生日の日だけ、2時間おきにお互いのいる場所に入れ替わってしまう瞬間移動の能力があるのだ。2人の人間の意識が入れ替わるという物語は世の中に数多くあるが、体ごと瞬間的に入れ替わる設定は前代未聞!? 体育の授業のため体操服を着て校庭にいた優我と、教室で普段着を着て授業を受けていた優我が入れ替わってしまい、「いつの間に着替えたのか」と周囲を困惑させたなどという日常の些細な事件には思わず笑わされてしまう。最初は何が起きているのかもわからなかった優我と風我だが、入れ替わりの回数を経験するにつれ、この能力でできることを実験していく。そして、能力を何かに生かしたいと思うようになるのだ。

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 父親の暴力に耐えながら、待ちわびていたのについに現れなかった正義のヒーロー。平気で弱者を踏みにじる人々への怒り。理屈が通じない悪人たちを一泡吹かせてやりたいという思い。許しがたい人々に出会った時、能力を武器に2人はどう立ち向かうのだろうか。

 事件が起こるたびに、優我と風我の2人の絆の強さに胸が熱くなる。優我と風我は決して幸せではないし、恵まれた生活もしてこられなかった。不運ばかり続くが、だからこそ、2人の絆は本物だ。

「優我の人生は、俺のものでもある」
「何だよそれは」
「二人で二つの人生だ。どっちも俺たちのものだ」p.146

 パズルのピースが少しずつ集まり、ひとつの像を結んでいく。終盤にかけて伏線が瞬く間に回収されていく快感は、伊坂作品ならでは。そして、クライマックスで2人は…。切なさはありつつも、前向きな気分になれるのが、この作品の魅力。不運だけども、手強い双子の戦いを、あなたもぜひ見届けてほしい。

文=アサトーミナミ