死体もウソをつく!? 元監察医務院長が見たサスペンスドラマ以上に衝撃的な真相とは

社会

2018/12/16

『裏切られた死体』(上野正彦/朝日新聞出版)

 私たちがウソをつくときは、さまざまな理由がある。ウソは人を喜ばせたり、傷つけたりするが、この世で最も悲しいのは死体がつくウソなのかもしれない。

『裏切られた死体』(上野正彦/朝日新聞出版)には、元東京都監察医務院長として2万体もの死体を検視してきた著者が、実際に目の当たりにした“死体のウソ”が全6章にわたり、記されている。

 事故死のように見えたり、偽装工作されていたりする死体は、サスペンスドラマで取り上げられることも多い。しかし、現実の死体にはサスペンスドラマ以上の悲しみや故人の想いが詰まっている。本稿では具体的なエピソードをご紹介しながら、人生の終わりにウソをつかねばならなかった死体の寂しさを伝えていきたい。

■災害事故と思われた工事中の落下が実は…

「人生の幕を閉じるときは、笑って逝きたい」——本来なら誰しもがそう思うはずだが、中には深い闇をひとりで抱えたまま、命の幕引きを行ってしまう人もいる。こうした時、死体は悲しいウソをつき、監察医としてウソを見抜かねばならない上野氏は心を痛める。本書に収録されている、下請け会社の社長のエピソードもそのひとつだ。

 4~5人の従業員を抱え、経営赤字に苦しんでいたこの社長はある日の昼、ビルからお尻から転落し、命を落とした。当初は、工事中の事故であり、お尻から真っ逆さまに転落していたため、災害事故と結論付けられるはずだった。

 しかし、上野氏が死体所見で、両足の大腿骨頸部と肋骨が骨折していることに気づき、事態は急変。社長の死は、遺された家族へ災害保険が支払われるように仕向けられた自殺であることが分かった。

 彼は死への恐怖を消し去るため、後ろ向きのまま、ビルの屋上の床を蹴り、自殺を図った。そのため、両足で着地したときに大腿骨の頸部骨折が起き、尻もちによって背骨と腰椎が折れた。その後、前のめりになることで首が骨折し、大腿部に胸を折りたたむように打ち付けた反動で頭が振れ、仰向けに倒れた。これが、上野氏が導き出した死体の本音である。なんと、初めに事故死の証拠だと考えられていたお尻からの転落は、死への恐怖心を克服するため、彼が最期の力を振り絞った証だったのだ。

 彼は「事故」というウソを自らの体につかせるため、一体どれくらいの間、日常的に死の瞬間をイメージしてきたのだろう。そして、本来ならどんな死に方をしたかったのだろう。それを考えると、いたたまれない気持ちになる。

 本当に幸せな人生とは、幸せな死に方とは何なのか。そう問いかける本書は、自分の命の幕をどう閉じていきたいのかを考えさせてくれる、ノンフィクション作品。果たして私たちは、自分の本音も家族の心も裏切らない死体になれるのだろうか。

文=古川諭香