発達障害は“重複”することも? 「ちょっとAS」で「ちょっとADH」な生きづらさを抱えた人たち

暮らし

2018/12/18

『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(本田秀夫/SBクリエイティブ)

 臨機応変な対人関係が苦手で強いこだわりを持つとされる「自閉症スペクトラム症(ASD)」。不注意であったり多動性・衝動性があったりする「注意欠如・多動症(ADHD)」。この他「学習障害(LD)」など、日常生活に支障が出る先天性の障害を持つ人を総称して「発達障害」と呼ぶ。

 ここまでの知識は、最近になってメディアが多数取り上げるようになったので、誰もがやんわり理解するようになってきた。しかし『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(本田秀夫/SBクリエイティブ)の著者であり、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたって発達障害の臨床と研究に従事してきた精神科医の本田秀夫先生は、こう指摘する。

重複の程度は人によって異なりますが、ひとつの障害の特性だけが存在し、そのための診療だけで対応できるという例は、比較的少ない印象です。

 本田先生によると、発達障害の特性を“重複”して持つ人がいて、それが生きづらさの原因になることがある。しかもその傾向が一定数見られるらしい。いったいどういうことなのか? 本書より少しだけ掘り下げてみたい。

■「ちょっとAS」で「ちょっとADH」な人たち

 たとえばADHDと診断された人には、どうしても注意が散漫になって仕事のミスを連発し、同じ場所で集中して働くことが苦手、という印象を抱く。ADHDの特性が「不注意」と「多動性・衝動性」だからだ。

 もちろん専門機関でADHDと診断されればその傾向があるはずなのだが、なかには「ADHDと診断されたけど、強いこだわりがあるし、人間関係の構築も苦手…」というASDの特性を持つ人も存在する。これを本田先生は“重複”と表現する。本書より具体例をご紹介したい。

 ある女性社員が職場でいつも苦労していた。本人は気をつけているつもりなのに、書類のミスが多く忘れ物も多い。しかし彼女は真面目だったため、周りのベテラン社員たちが好意的にサポートすることで乗り切ってきた。彼女はミスが多いが真面目で若い勤勉社員だった。決して評価は低くなかった。

 ところが勤務年数が経ち、仕事量が増えるといよいよミスが増えてきた。自分より若い社員が増えたことでベテラン社員のフォローが減り、むしろ新入社員にサポートされることも出てきた。彼女はとても真面目なのだが、雑談が苦手で人付き合いが得意ではなかった。

 結果、若い頃は「真面目な社員」という印象だったが、キャリアを重ねることで「同僚と上手くコミュニケーションを取れない人」とみなされ、マイナスの評価を得るようになった。

 これこそ特性が重複する分かりやすい事例だ。彼女はADHDの「不注意」を抱えているが、「多動性・衝動性」は見られない。一方、ASDの「対人関係が苦手」という特性が見られるが、「こだわりが強い」わけではない。

 発達障害は必ずしもADHDやASDが“強く” 発言するわけではないのだ。それぞれの特性を少しずつ持ち合わせる人、1つの特性だけが出る人。発達障害は機械や商品のように、必ずしも“特定のものだけ分かりやすく” 発言するわけではない。人それぞれだ。

 これを本田先生はこう表現する。

「ちょっとAS(自閉スペクトラム)」で「ちょっとADH(注意欠如・多動)」な人たち

※ADHDの最後の「D」は「Disorder(障害)」を表す。しかし「障害」というほどではなく、それぞれの特性を重ね持つだけなので、あえてこの表現が妥当と本田先生は述べている。

 それぞれの発達障害の特性が一部だけ発現して、日常生活に支障をきたすほどでないけど、特性が重複することで悩みが一層大きくなることもある。そんな人に「ADHDを抱える人の対処法」だけを実践してもらっても解決できない。本人や周囲の苦悩が深まるばかりだ。では、どんな対処法があるのだろう?

■特性を「理解」した上で「環境調整」することが大事

 発達障害を抱える人は、程度や重複がどのようであったとしても生きづらさに悩んでいる。重要なのは、自身が抱える特性を「理解」した上で「環境調整」することだ。

 まず重要になるのが、発達障害の特性を見極めること。専門機関での診断は今後も大きな尺度になる。しかしそれだけではなく、自分の「発達の特性」を知ることも大切だ。本田先生はその方法の1つに「発達障害の特性別評価法(略称MSPA)」を本書で紹介している。

 これは京都大学大学院の船曳康子教授を中心とした研究グループが考案したもので、保険適用が利く診断方法だ。発達障害の代表的な特性を、コミュニケーション、こだわり、不注意、多動、衝動性、学習など、14項目に分け、それぞれの強さを5段階で評価する。円形のレーダーチャートで示されるので、本人や関係者に理解を促しやすい。

 特性を理解した後は、環境調整が重要になる。発達障害を抱えていることを理解しても適切な対応を取らなければ、仕事や日常生活が上手くいかないばかりか、本人と周囲の関係がギクシャクしてしまうことになりかねない。そこで次の3段階の対策を取ろう。

(1)生活面の「環境調整」(本人なりの世渡り術も含む)
(2)「療育」や「福祉サービス」などの「専門的な対応・支援」
(3)「医学的な治療」

 1段階目の対策として大切なのは、特性によって出てきた苦手な分野を補完する手段を考えることだ。現状を把握して、その中でできること・できないことを検討するので「トップダウン式」と呼ぶ。

 本書は、環境調整に関する詳しい解説がなされていたり、「ASとADHの強弱と重複」を分かりやすくイメージする図解が掲載されていたりと、生きづらさに悩む人々の解決法について詳しく掘り下げている。他の発達障害に関する書籍にはない情報が多く掲載されているので、「思い当たるなぁ」という人はぜひ手に取ってほしい。そして自身の生きづらさを軽減してほしい。

 認知度が上がり世間の理解が深まりつつある発達障害。しかしその特性が“重複して現れることもある”と、踏み込んだところまで解説するメディアは少ない。本書が、より世間の理解を深め、人々の生きづらさを軽減する一助になればと願う。

文=いのうえゆきひろ