現実か、はたまたSFか? 自動運転車と交通事故に遭遇したとき、人は何を考えるのか

文芸・カルチャー

2019/1/12

『ハロー・ワールド』(藤井太洋/講談社)

 仮想通貨、ドローン、自動運転――。私たちの周りに次々と現れる新しい技術やサービスは、まずはたいてい社会からの反発を受ける。「AIが仕事を奪う」「仮想通貨は安全ではない」「自動運転で事故が起きたら」…聞こえてくるのは、そんな“不安”の声ばかりである。確かに、新しい技術が社会に溶け込むためには、安全面や法律面でクリアしなくてはならない問題がたくさんある。だが、テクノロジーの力を信じる技術者たちの努力の結晶が、“なんだか得体のしれないモノ”として扱われてしまうのは少々さびしい。

 本作『ハロー・ワールド』(藤井太洋/講談社)は、実在のIT企業や近年のホットワードを登場させながら、現在から極めて近い未来――2019年内、あるいは2020年の世界を描くというSF作品だ。年々存在感を増していくGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)や、仮想通貨、ドローンといった新技術は、私たちの未来をどう変えていくのだろうか。エンジニアでもある著者・藤井太洋氏が見据えるのは、限りなく“予言”に近い、あり得るかもしれない未来だ。

■新技術が次々と現れる近未来は、はたして不安に満ちたものなのだろうか?

 藤井氏が“自分の分身”だと語る主人公・文椎泰洋(ふづいやすひろ)は、ベンチャー企業に勤める自称“何でも屋”のエンジニア。表題作「ハロー・ワールド」では、文椎たちが開発した広告ブロッカーアプリ「ブランケン」(PCやスマホの画面に出る広告を表示させないためのソフト)が、ある日突然なぜかインドネシアで爆発的に売れ始める。東南アジアの島国で何が起こっているのか? ひとつのアプリが思わぬ形で異国の政治とつながり、文椎たちはある決断を迫られることになるのだが…。

 他4編でも、文椎はテクノロジーに関するさまざまな事件に巻き込まれる。第2編「行き先は特異点」では、車でラスベガスへと向かう途中、追突事故に巻き込まれる。なんと、相手の車は実験中のGoogleの自動運転車で…。第5編「めぐみの雨が降る」は、仮想通貨が題材だ。サトシ・ナカモトと名乗る人物の論文を基に、世界中のエンジニアたちによって作られてきた仮想通貨。そのロマンを語りながら、文椎は私たちに新しい可能性を示してくれる。

 全編に共通するのは、次々と現れる新しいテクノロジーを恐れるのではなく、それらが私たちの豊かな未来を切り開くものだとポジティブに捉えていることだ。これは、藤井氏がこれまでの作品でも一貫して描いてきたテーマでもある。本作で最新の技術に携わるエンジニアたちの世界を垣間みれば、未来も案外捨てたもんじゃないと思えるはずだ。

文=中川 凌