『おしっこちょっぴりもれたろう』『ノラネコぐんだん』『パンのずかん』…「MOE絵本屋さん大賞2018」受賞作家さんたちの想い

文芸・カルチャー

2019/2/2

 子どもから大人まで広く人気を集める「絵本」の世界。ここ数年、絵本の注目度はぐんぐんあがり、昨年2018年は1200点もの新刊絵本が登場しています。こうなると「どれを選べばいいの?」と迷ってしまうもの…そんな読者の頼れる味方になってくれるのが、世界で唯一の絵本月刊誌『MOE』(白泉社)が主催する「MOE絵本屋さん大賞」(協力:朝日新聞東京本社メディアビジネス局)。全国の絵本専門店・書店の児童書担当者3000人にアンケートを実施し、最も支持された新刊絵本30冊を決定する年間絵本ランキングです。開催11回目を迎えた同賞ですが、プロの目利きは今回どんな絵本を選んだのでしょう? 先日、都内某所で開催された贈賞式の模様とともに、受賞者の喜びの声をお届けします。

『MOE』編集長の門野 隆さんの挨拶から贈賞式はスタート。続いて第10位までのMOE絵本屋さん大賞の受賞作品が次々発表され、白泉社の鳥嶋和彦代表取締役会長がお祝いの言葉をおくりました。

〈月刊『MOE』門野 隆編集長のご挨拶〉
「絵本は子どもが最初に触れる本であり、エンターテインメントであり、おもちゃであり、さらには大人の嗜好品であり。多様性があり一括りにできないことこそが、絵本のよさだとあらためて実感しています。みなさまの熱意とアイディアで、これからも裾野は広がっていくことでしょう。」

〈白泉社 鳥嶋和彦代表取締役会長の祝辞〉
「受賞作を読んで感じたのは、子どもの目線は自由で素直、さらに耳もとてもいいということ。大人が絵本を読む理由もここにあるように思います。ふっと忘れてしまったことに気がつく、硬直した自分の精神に対するマッサージのような感じかもしれません。僕もその意味では、かなり精神がほぐされました。ここにいらっしゃる方々、そしてまだここにいらっしゃっていない方々、いろんな方にお会いできることを楽しみにしています。」

 続いて受賞作家さんにクリスタル楯が贈呈されました。その後、それぞれが個性豊かなスピーチで喜びと感謝を伝えました。

■第1位 『おしっこちょっぴりもれたろう』(ヨシタケシンスケ:作・絵/PHP研究所)

 いつもおしっこがちょっぴりもれちゃう、もれたろう。でも、ズボンをはいたら外からみてもわからない。もれたろう仲間を探しに、ご近所にでかけていくもれたろうですが…子どもの悩みがちょっぴり軽くなる!? 今、大人気のヨシタケシンスケさんによるユーモア絵本。

「数年前のうちの下の子がモデルです。トイレからでてくるとパンツにじわっとシミができていて、それを見て嫁がため息をつくという一連のシーンが面白くて絵本にしたいと、タイトルの語感だけで編集さんからオッケーがでた本です。もれたろうのお子さんたち、かつてちょっぴりもれたろうだった大人たち、そして今後、5年、10年先にもれる予定のある方たち、皆さんに読んでいただけるといいなと思っています。」

■第2位 『みえるとか みえないとか』(ヨシタケシンスケ:作 伊藤亜紗:そうだん/アリス館)

 宇宙飛行士のぼくが降り立ったのは、目が3つあるひとの星。目が2つのぼくは珍しくてかわいそうで変な感じ。目の見えない人に話しかけてみたら、それもぼくと違ってる。違うところも同じところも、知り合えば面白い。視覚障がい者の世界の認識方法研究をベースにした異色の絵本。

「3年かかりましたが、なんとか形にできました。どうしても先にあるイメージなど余分なものを丁寧に取り除く作業、見てほしいものだけを見てもらう作業、何が余計か考える作業がとても難しかったですし、その皮をむいていくような作業が大事だと思いました。」(ヨシタケ)

「私が考えていたことの大事な部分を、全く別の形で表現してくださったので、『そうだん』という肩書きになっています。研究者として『単純な言葉で表現できないことは真理ではない』と思っていますが、それは相手が小さな子どもでも同じこと。私が何十ページもかけて書いたことが『へー』という言葉に凝縮されている感じも、ほんとにすごいと思いました。」(伊藤)

■第3位 『ノラネコぐんだん アイスのくに』(工藤ノリコ:作/白泉社)

 アイスクリーム工場に忍び込み、アイスクリームをたいらげて寒さで倒れたノラネコぐんだん。ペンギンのペンペンが助けてくれたけれど、こんどはペンペンがピンチにおちいり…シリーズ累計100万部突破の大人気シリーズ第6弾。

「自分が小さい頃と同じように考えていることを、文章や絵という成長した大人の力を使って本にして、編集者さんや書店の方々という大人に助けていただいて、こうして私の中の子どもと読者の子どもが一緒にいられる。それは非常にありがたく、幸せなことです。サイン会で出会う小さなお子さんは、私のうしろの壁のむこうにノラネコぐんだんがいると思っているようで、『私の世界の仲間だ』といつも感動しています。」

■第4位 『えがない えほん』(B・J・ノヴァク:作 大友剛:訳/早川書房)

 この絵本に書かれているのは、言葉だけ。唯一のルールは「かかれている ことばは ぜんぶ こえに だして よむこと」。意外な言葉のオンパレードに大人は困惑、子どもは爆笑。読み聞かせで大盛り上がりすること間違いなし。

「この本で伝えたかったのは、言葉はすばらしい力を持っているということと、子どもはその力を使って、人を喜ばせたり、笑わせたり、いたずらできたりするということです。この本が日本の親子を楽しませていると知って、とてもうれしいです。言葉が変わっても失われない力があることを証明してくれました。」(B・J・ノヴァク/代読)

「全国の幼稚園や保育園などで2000人の子どもたちに読み聞かせをして言葉を直していったので、実は翻訳は『おおともたけしと日本のこどもたち』だと思っています。読み聞かせをするとびっくりするくらい笑い転げてくれて、子どもの感性や表現にはいろいろな可能性があることを実感します。いじめ、貧困など、日本の子どもたちが育つ環境にはさまざまな問題がありますが、少しでもよくしていけるようなアクションをし続けたいと思います。」(大友)

■第5位 『おでこはめえほん1 けっこんしき』(鈴木のりたけ:作/ブロンズ新社)

 今日はめでたい結婚式。文金高島田の花嫁さんに、花婿さんはちょんまげ頭。音楽家に女王様にマハラジャに宇宙人!? 開いたページをおでこにはめて、楽しく変身できる、なりきり絵本!

「製本所の型抜きの機械が動く様子を映像で見てから、どうしてもぼくの本でも動かしてほしくて一生懸命考えて作りました。読み聞かせをすると、子どもたちは勝手にセリフをつけたりしてなりきってくれます。その姿がすごく発見で面白くて、これからも参加型の本というのを考えていきたいです。」

■第6位 『あめだま』(ペク・ヒナ:作、長谷川義史:訳/ブロンズ新社)

 家に母はいないし、飼い犬も遊んでくれない。一人で遊ぶドクが「あめだま」をなめると、不思議な声が聞こえてきて…韓国の絵本作家ペク・ヒナさんの独自世界に、日本の絵本作家・長谷川義史さんの関西弁訳がベストマッチ。

「他の外国人作家さんは贈賞式に参加されていないので、ひとりで興奮しすぎたかと心配もしましたが、こうして本で知っていた先生方にお会いすることができてよかったです。ここ最近、少しスランプぎみでしたが大きな励みになりました。あらためて感謝申し上げます。」(ペク・ヒナ)

「彼女はお人形や背景作り、ライティング、撮影まで全部ひとりでやっていて、画面から感じとるところがものすごくたくさんあります。「絵で語る」ことが大事な絵本ですが、同じ絵本作家として学びがたくさんありました。韓国の方から学ばせていただくこと、仲良くさせていただくことはとても大切なこと。日本のみなさんに伝える役割を一部でもできてすごくうれしいです。」(長谷川)

■第7位 『パンのずかん』(大森裕子:作、井上好文:監修/白泉社)

「くまベーカリー」には、あんパンにベーグル、プレッツェル、やきそばパンといろんなパンが並びます。どの国で生まれたどんなパンなのかもわかる、見ているとお腹が空いてくる、パンだらけのおいしく楽しい絵本。

「美味しいものを美味しそうに、パンの持つたくさんの表情、香り、重さ、味を感じてもらいたい一心で描きました。ある読者の方から『発達障害でお話の絵本は読めない息子が、この図鑑はいつまででもながめています。その姿を見ていると幸せになる』と感想をいただきました。絵には何かを伝える力のようなものがあるのだと思います。自分のやるべきことをブラッシュアップしていきたいです。」(大森)

■第8位 『どしゃぶり』(おーなり由子:文、はたこうしろう:絵/講談社)

 真夏の青空がにわかに曇ると、あっという間にどしゃぶりに。大喜びの男の子は傘に叩きつける雨を楽しみ、全身に雨を浴びて、とことん遊び尽くし…まるで一緒に雨で遊んだようで気分爽快!

「息子が大喜びで夕立の中で遊んでいたことを元にしています。夏の雨がすごく好きで、どんどんやってくる雲がこわかったり、大雨で世界が変わった後に幻のように晴れたりするのが面白くて、そういうものを絵本にしたいと思いました。とにかく絵を描いている間の夫・はたが楽しそうで、その人の中の子どもが飛び出してくるような本になったんじゃないかと思います。私も書いている間、雨と遊んでいるようですごく楽しかったです。」(おーなり)

「とくにオチもなく、ただただ子どもが雨にうたれるという体感の楽しさを表現しただけの絵本なのに、たくさんの方がおもしろいと言ってくださるのは、今はこういう経験がしにくい時代ということなのかと思います。僕はこういう経験がとっても楽しいことだと知っているので、これからもこういう絵本をたくさん作っていきたいと思います。」(はた/代読)

■第9位 『ごみじゃない!』(minchi:作・絵/PHP研究所)

「たからものコンテスト」に出品されるのは、消しゴムの消しかす、お店のビニール袋、各種空き箱、ひもにリボン、砂、小枝…子どもたちの大事なたからものが85も勢揃い。ユーモラスなのに、どこかなつかしい。

「大人が好きなものと子どもが好きなものには重なっている部分がありますから、私はそれを子どもと一緒に楽しみたくて絵本にしています。この本は娘の行動がきっかけでうまれましたが、私も子供の頃に同じようなことをやっていたのを思い出して描いたので、娘と私の共同の作品。子どもも大人もわくわく楽しんでくださったらうれしいです。」

■第10位 『クマと森のピアノ』(デイビッド・リッチフィールド:作、俵万智:訳/ポプラ社)

 森の中で道桁ピアノを独学でひきこなすクマのブラウン。都会へ出て大活躍、すべての夢がかなったのに何かが足りない――夢をかなえること、そして大切な友だちとのつながりを描いた心あたたまる物語。

「子供の頃に絵本を読んでもらったこと、大人になって息子に読んであげた時間、どちらも『宝物』になっています。それは期間限定の幸せな時間で、そんな時間にこの本が選ばれ、届いてくれるのは本当にうれしいことです。」(俵/ビデオレター)

 贈賞式の終わりには上位入賞作に対するレビューの中からMOE編集部がベストワンを選んだ「ベストレビュアー賞」への楯の贈呈も行われ、受賞した書店員さんたちが全国から来場し、喜びをコメント。そして絵本愛に溢れた贈賞式は幕となりました。

取材・文=荒井理恵