「好き」や「得意」で仕事選びをするのはNG? 転職必至時代のキャリアの考え方

ビジネス

2019/4/16

 人工知能(AI)の台頭、寿命の伸長と事業の短命化など、世の中の変化や動きが読みづらい時代だ。「1つの職業を全うする生き方は今後ほとんどあり得ないものになっていく」、と述べるのが、本稿で紹介する『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(山口周/光文社)だ。著者自身の体験やキャリア研究を用いて「幸せになるための仕事選び」を解説した1冊。山口周氏は電通、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て現在はコーン・フェリーのシニア・パートナーであり、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などの著者として知られる。本書は『天職は寝て待て』の改訂版である。

『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(山口周/光文社)

■西洋古典絵画に見る、「天職」への「転職」

 まず目をひく本書表紙の絵は、バロック期のイタリア人画家・カラヴァッジョの作品。イエスが収税人のマタイに対して自分の弟子になるよう指名した瞬間を描いたものだ。キリスト教では、“天職”とは自己によって内発的に規定されるものではなく神から与えられるものと考えられていた。著者はこの絵のメッセージを受けて、「天職とは、人生のあるときに思いもかけぬ形で他者から与えられるものではないか」と述べ、その縁をつかむためには、「心をオープンにして目の前の仕事を一生懸命やること」が大事であり、「結局いい縁はいい奴に集まる」と導き出す。「幸運は準備のできている人にだけ訪れる」という名言もあるが、これは細菌学者・パスツールの言葉である。

■「逃げ」の転職、「攻め」の転職の注意点とは?

「逃げ」の転職を考えたときには、まず「半年待ってみる」ことが大事だという。周りの状況が変わり問題が解決される場合があるからだ。また、状況が悪いときには、自分のエネルギーレベルが落ちているので、人生の舵を大きく切るような判断をするにはかなりリスクが大きい。「攻め」の転職の場合は、「何を得られるかではなく何を失うのか」を見過ごしがちなので、注意深くならなくてはいけないと述べる。

 著者は自分自身の転職経験について、成功か失敗かはわからないが、タペストリー(織物)のようにさまざまな要素が織り込まれて今の仕事につながっている、と語る。また、キャリアは短期間でなく長い年月をかけて積み上げていくものなのだと述べる。転職を繰り返すことについては、仕事のおもしろさがわかるようになるには3年程度かかるので、その期間は続けることをすすめている。

■仕事は「好き」×「得意」で選んではいけない。そのワケは?

 これまでのキャリア論で、「好き」と「得意」の重なる領域の仕事を選ぶことをすすめられたことはないだろうか? しかし、得意かどうかは、実際にやってみないと判断できないことも多い。また、好きと憧れを混同してしまうと、キャリアをミスリードすることになる。「自分は何になりたいのか」ではなく、「何をやりたいのか」を見極められれば、それが職業選択の大きな軸になる。棋士の羽生善治さんは「才能は長期的な努力にはかなわない」と語っている。地道に努力を積むことで、やがて得意にもなるのだ。

“仕事選びを予定調和させることはできない。自分をオープンに保ち、いろんなことを試し、しっくりくるものに落ち着くしかない”

 著者がこの結論に至った思考のプロセスを逍遥しながら、「自分の仕事選びを考える」ための切り口や知識を得ることができるのが本書。自然科学や人文科学をはじめ幅広い分野からの名言も満載だ。今漠然と“自分探し”をしているという人には特におすすめしたい。

文=泉ゆりこ