「行きたくない」気持ちを優しく包むアンソロジー 加藤シゲアキや住野よるなど、旬の作家が集合!

文芸・カルチャー

2019/8/18

『行きたくない』(加藤シゲアキ、阿川せんり、渡辺優、小嶋陽太郎、奥田亜希子、住野よる/KADOKAWA)

 休日明けの朝、学校や仕事に行きたくないと思う人は多いだろう。会いたくない人がいる場合もあれば、特に理由はなく、なんとなく行きたくないと思うこともある。そんな憂鬱な気持ちを抱いたあとにどのような行動を取るか。行きたくないけど頑張って行く、行きたくないから行かないなど、状況によって選択は違うはずだ。

 そんな「行きたくない」気持ちがテーマの作品が登場した。『行きたくない』(加藤シゲアキ、阿川せんり、渡辺優、小嶋陽太郎、奥田亜希子、住野よる/KADOKAWA)は、話題の作家6人の書き下ろし小説をまとめたアンソロジーだ。誰もが抱いたことのある不可思議な感情に焦点を当てたとき、そこにはさまざまなストーリーがあった。

 最初の作品「ポケット」は、アイドルグループNEWSのメンバー・加藤シゲアキの作品。幼なじみの女の子に彼氏と別れるところを見ていてほしいと頼まれる男子高校生が主人公だ。彼には行きたいところがない。部活やバイトに特別な意味があるわけでもなく、恋愛経験もない。進むべき方向がわからない主人公にとって、自分の人生を自らの意思で生きている周囲の人は遠くの存在。彼に行きたいところは見つかるだろうか。

 続く「あなたの好きな/わたしの嫌いなセカイ」は阿川せんりの作品。主人公は保健室の先生で、毎週金曜の放課後になると、女子生徒が好きな作家の話をしに保健室にやって来る。彼女の気持ちを理解してあげなければと思うものの、主人公は昔からその作家のことが大嫌い。しかし、行きたくないと思うだけでは状況は変わらない。自分にはやるべきこと、やれることがあると気づいたとき、そこは行きたくない場所ではなくなっている。

「行きたくない」という気持ちを持つのは人間だけではないかもしれない。渡辺優の「ピンポンツリースポンジ」は、少し未来の話。主人公が会社に行こうとすると、通常ならついてくるはずのロボが「行きたくありません」と言って動かない。感情がないロボがどうしてこんなエラーを吐くのか、そもそもこれはエラーなのか? 主人公と迎えに来た社長は原因を考え始める。果たしてその真相とは。

 小嶋陽太郎の「シャイセ」は、同棲していた彼氏が何も言わずに家を出て行ってしまった女性が主人公。心の支えを失った彼女は、会社で悪口を言われたり、男性社員に肩をもまれたりするストレスへの耐性が落ちており、会社に行きたくないという本音に気づく。気になるタイトルは、主人公が仕事帰りに立ち寄るコンビニの女性店員の呼び名だ。ガリガリに痩せており、拒食症だと思われる彼女。人生のつらい時期にいるもの同士が、お互いに寄り添って支え合う、優しい物語だ。

「行きたくない」という感情には、「今の環境から離れたくない」という気持ちも含まれていると思う。奥田亜希子の作品、「終末のアクアリウム」の主人公は夫と2人暮らし。彼女は結婚して仕事も家事もやめた。夫はそんな彼女を受け入れてくれている。しかし、ある日大学時代のゼミ仲間から電話がかかってきて、日常が揺らぎ始める。夫の本心に気づかぬふりをしてきた主人公。この世界の終わりは少しずつ近づいている。

 最後の作品は「コンピレーション」。住野よるによる少し不思議な物語だ。主人公の女性が仕事を終えて帰宅すると、いつも家に友達が待っている。しかも毎日違う友達で、すべて初対面の人。でも、相手が友達だと主張するから、そういうことにしている。毎日違う友達とご飯を食べて、映画を見たりゲームをしたり。ところが、あるときから同じ友達が繰り返し訪れるようになる。「行きたくない」と同時に現れる、「行くべき」という思い。しかし、自分の世界は自分で決めていいのだ、そんな優しさにあふれた作品。

「行きたくない」という気持ちを持つ人の背中をそっと押してくれたり、「行きたくない」と思うことの後ろめたさをなくしてくれたりする、心温まる作品がそろっているので、お気に入りの物語を見つけてみてはいかがだろうか。ネガティブな感情が少しだけ前向きになるはずだ。

文=かなづち