猫には飼い主にしか見せない「愛」があった! 人気動物学者・今泉忠明があかす“猫脳のヒミツ”

暮らし

2019/9/20

『猫脳がわかる!』(今泉忠明/文藝春秋)

 猫は自分の意思を貫き通しているにもかかわらず人間を虜にしてしまう、不思議な動物。関心のない素振りをとったかと思えば急に甘えてきたりし、先が読めない行動を続々と見せてくれます。『猫脳がわかる!』(文藝春秋)は、そんな“猫”という動物の生態を脳科学の視点から解き明かした一冊。本書では『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)で監修を務めた今泉忠明さんが全5章にわたり、猫の脳の仕組みを解説しています。

 近ごろは「猫ブーム」というフレーズも聞き飽きるほど、猫にスポットが当たる機会が増えてきました。2017年には猫の飼育頭数が犬の飼育頭数を上回り、人と猫はますます密接な関係になっています。外見的なかわいさに惹かれ、「猫を飼ってみたい」と考えている方はきっと多いはず。しかし、猫の魅力は見た目の愛くるしさだけではなく、野性味や動物としての合理性、自立性を併せ持っているところにあります。

 猫脳を通し、生態や習性を理解すれば、飼い猫や近所の猫とももっと心が通わせられるようになるはず。かわいいだけじゃない“真の猫の姿”を学んでみましょう。

■猫の脳と人間の脳はほぼ同じ!

 私たち人間と猫は、脳の仕組みが異なっているように思えるかもしれません。しかし、実は基本的な脳の構造はとても似ています。唯一大きく異なっているのは、人間の脳の多くを占める「大脳新皮質」が猫は非常に小さく、発達していないこと。

 大脳新皮質は理性を司っており、「考える脳」とも呼ばれています。猫はこの新皮質が大脳辺縁系を覆うようにうっすらとしかないため、筋道を立てて物事を考えたり物理的に情報処理することができなかったりするそう。しかし、興味深いのは“うっすらとはある”ということ。今泉さんも、猫を研究している中で合理的な思考や理性を垣間見ることがあったといいます。猫は人間が思っているよりも冷静で賢い動物なのかもしれません。

 また、猫の知能はよく2~3歳の幼児程度だとたとえられますが、今泉さんはそれよりも高い知能を持っているのではないかと考えています。例えば、子猫期によく見られる、丸めた紙などを獲物に見立てて行う「ごっこ遊び」は、知能が高くないとできない行動です。

 人と猫では行動の在り方や必要とされる能力が大きく異なるため、私たちの基準に当てはめて猫の知能を図るのはナンセンスだと言えます。

■猫の感情は「喜怒“愛”楽」

 私たちが日常の中で抱く感情はざっくりと「喜怒哀楽」に分かれますが、猫の場合は「喜怒“愛”楽」のほうが近いのだそう。先ほども紹介したように、猫は大脳新皮質が非常に少ないため理性を働かせる「意識的な感情」よりも、本能的な感情である「情動」が多くを占めています。

 今泉さんいわく、猫には「心を痛める」という意識的な感情はありませんが、同居猫や飼い主さんにしか見せない特別な親愛表現の「愛」はあり、そうした気持ちはしっぽやヒゲを使って表現します。感情の抱き方や表現方法は人間と違えど、猫にも心はあるのです。

 ちなみに、猫も人間と同じく「自律神経失調症」にかかるそう。猫の自律神経失調症は「キー・ガスケル症候群」と呼ばれており、1982年にイギリスで報告されて以来、広く知られるようになりました。原因は未解明ですが、食欲不振や便秘など人間の自律神経失調症と同じような症状が見られます。猫は人間と似た脳構造であるため、繊細な心も持っているのかもしれません。

 近年は猫を擬人化したり小さな犬のようにかわいがったりしている人も多いように感じます。しかし、猫には猫ならではの習性が備わっているもの。幸せな共生生活を送るには生態を受け入れ、猫らしく生きられる環境を作っていくことが大切。本書はその方法を探れる、貴重な一冊です。

文=古川諭香