本能寺の変、徳川幕府誕生…あの歴史的大事件の裏でも暗躍!? 猫又たちが花のお江戸を縦横無尽に駆け巡る畠中恵の最新作

文芸・カルチャー

2020/1/24

『猫君』(畠中恵/集英社)

 人の世を20年生き抜いた猫は、人の言葉を話すようになり、尻尾がふたつに割れた猫又となる。そして人の姿に化けて、長い長い時を生きていくのだ――。

 という、猫好きにはたまらない設定で描かれる畠中恵さんの最新小説『猫君』(集英社)。畠中さんといえば「しゃばけ」や「つくもがみ」シリーズをはじめ、あやかし×時代小説で人気だが、読者をひきつけてやまないのは設定のおもしろさと、登場するあやかしたちの愛らしさ。『猫君』でもそれは大爆発で、主人公の金目銀目・茶虎のみかんを筆頭に、かわいい猫ちゃん…もとい、新米猫又たちが大活躍する小説である。

 江戸・吉原で髪結いをするお香に飼われていたみかんは、生をうけて20年を迎えようとしていた矢先、お香が亡くなり、飼い主を取り殺した疑いで住処を追われてしまう。亡きお香の願いでもあった猫又になるため、生き延びようとするみかんの前に現れたのが人に化けた猫又の加久楽(かぐら)。みかんの兄貴分にあたる彼は、自分の「陣」にみかんを迎えにきたという。そして明かされるお江戸の秘密。6つの陣にわかれた猫又たちの、陣取り合戦の歴史。そこに介入する将軍徳川家の存在…。

 かくまわれた妓楼の一室で、戸惑いながらも猫又として生きる新たな道を教えられるみかんだが、落ち着く間もなく、今度は怪しい男たちに襲われる。むりやり首にくくりつけられる玉。男たちは、どうやら猫又史に名を刻む英雄「猫君」を探しているようで…。

 と、1話目からたたみかけるような展開が魅力の本作。タイトルにもあるこの「猫君」が、どうやら新米猫又のなかに再来したらしい、という噂が物語を引っ張る大きな謎になっていく。男たちに必死に抵抗するうち、生まれて20年経っていないにもかかわらず、自力で人の姿に変化するという前代未聞の事件を起こしたみかんが、果たして猫君なのか?

 その後送り込まれた江戸城内の「猫宿」、新米猫又たちの学び舎で奇想天外に活躍していく彼を見ていると、もしかしたら…なんて想像がふくらんでしまう。

 わくわくしながら読み進める一方で、ちょっとどんくさいけれど気のいいぽん太、優しくてかわいい白花(しろか)、仕切り屋で気位が高いけれど頼もしい鞠姫(まりひめ)、などなど、個性さまざまな新米仲間にも惹きつけられる。「猫君」と「陣地合戦」を通じて描かれる人間模様、ならぬ猫又模様にも要注目だ。

 さらには猫宿をとりしきる「長(おさ)」と呼ばれる人物の意外な正体。まさか歴史上、誰もが知っているあの大事件と猫又史がそんなふうにつながるとは…! と驚くと同時ににやついてしまう。もしかして現代も、そこかしこに猫又が潜んでいるのでは? 政財界の中枢には今も猫又の秘密が隠されているのでは? そんなことを想像すると、この殺伐とした世の中もちょっと楽しくなってくる。

 もしかしたら私たちの日常にも、あたりまえにあやかしは潜んでいるのかもしれない。いつもそう思わせてくれる畠中さんによる、新ワールドの開幕である。

文=立花もも