羽生結弦の金メダルは「彼」から始まった。異端の指導者は語る

スポーツ・科学

2020/3/14

『羽生結弦を生んだ男  都築章一郎の道程』(宇都宮直子/集英社)

 都築章一郎(つづき・しょういちろう)氏をご存じだろうか?

 日本フィギュアスケートの黎明期を作り、数多くの有名選手を育て、その礎を築いてきた大重鎮。そして誰よりもフィギュアスケートを愛する現役の指導者だ。

『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』(宇都宮直子/集英社)は、都築章一郎氏への取材を通し、日本フィギュアスケートが歩んだ歴史と彼の功績、また、あまり知られていないロシアとの交流を窺うことのできるノンフィクションだ。

 都築氏は、まだ日本のフィギュアスケートが競技として確立していない時代、指導のノウハウもなく手探り状態で、練習場所のスケートリンクも少ない、世間の知名度も乏しいような時から、「フィギュアスケートが好き」という情熱で、指導者として邁進してきた「異端の人」である。

 なぜ「異端」なのか。それは彼の歩んできた道が、当初から多くの賛同者を得ていたものではなく、順風満帆ではなかったから。時には私財を投げ打ち、自分の人生の全てをかけて、ただひたすらフィギュアスケートの発展のために尽くした。ロシアのフィギュアスケートの高い技術と芸術性にいち早く気づき、その指導者を自費で日本に招いたのも都築氏である。

「絶対に世界一の選手を育てる」。
その願望は、執着に似ていると本書は語る。

 本書には、都築氏だけではなく、ロシアの偉大な指導者のインタビューも綴られている。彼、彼女たちの口から語られる、都築氏が日本のフィギュアスケート界に与えた影響や、日本人選手への評価、また羽生結弦選手への賛辞などは、フィギュアスケートファンにとって必読の内容になっているのではないだろうか。

 現在は、日本史上一番と言っても過言ではない「フィギュアスケート最盛期」だと思う。だが、その人気が生まれる背景には、礎を築いてきた人々の努力と情熱があったことを知り、私は一層、フィギュアスケートへの奥深さを感じた。

 ブームになってからフィギュアスケートのファンになった私は、大袈裟ではなく、本書を読む前と後では、フィギュアスケートへの見方が変わったようにさえ思う。

「好きなことに好きなだけ打ち込んできた人生でした」。
数々の困難や苦労があったはずなのに、そう都築氏は話す。このカッコよさよ。

 最近では科学的じゃない熱い精神論とか、ダサイと言われてしまうのかもしれない。けれど、本書で感じられる都築氏の「不屈の精神」「がむしゃらさ」を、私はカッコイイと思った。

 本書は、フィギュアスケートファンには、知識としてもちろん楽しめる内容だが、それだけではなく、自分の中に眠っている情熱を、呼び覚ましてくれるような1冊だった。

文=雨野裾