コロナ禍の風早の街で生きる少女の視点から描く不思議なコンビニたそがれ堂、人気シリーズの番外編!

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/25

コンビニたそがれ堂異聞 千夜一夜
『コンビニたそがれ堂異聞 千夜一夜』(村山早紀/ポプラ社)

 海辺の街・風早の商店街のはずれにあるコンビニエンスストア「たそがれ堂」。本当に欲しいものや、願いごとのある人だけが訪れることができるという。店を切り盛りするのは、銀髪に金の瞳のイケメン店長(実は狐の神様)と看板娘のねここ(実は化け猫)。この世で売っているすべてのもの、そしてこの世には売っていないはずのものまで、たそがれ堂には何でもそろっている――。

「シェーラひめのぼうけん」シリーズをはじめとする児童文学から『桜風堂ものがたり』や『百貨の魔法』などの一般文芸まで、数多くの代表作を持つ作家・村山早紀さん。慈愛をもって世界を見つめるまなざしと、あたたかな作風で幅広い年齢層の読者に支持されている。村山さんが14年もの長きに亘って書き続けている人気シリーズ、「コンビニたそがれ堂」の最新刊となる特別編『コンビニたそがれ堂異聞 千夜一夜』(ポプラ社)が現在、静かに話題を集めている。

 本作の主人公は、風早の街を守る神様である風早三郎を奉る神社の娘、沙也加だ。兼業宮司の父親と、幼稚園児の弟の透矢の3人で暮らしている。折しも時は2020年4月。流行病が世界を襲い、先の見えない不安が世の中を覆いつくそうとしていた。そんなある晩、沙也加は異様な姿をした魔物と遭遇する。さらに透矢が前世の記憶を語りだして、「たまてばこ」を探しにコンビニたそがれ堂へ行きたいと言いだすのだった……。

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「一話完結」「三人称」「毎回独立した主人公」というスタイルが基本形だが、今回は「異聞」と銘打っているだけあって、いつもの『たそがれ堂』とは少しばかり色合いが異なっている。巫女見習いの高校生、沙也加が語り手となり、彼女の身に起こるちょっと不思議な出来事と、たそがれ堂との関わりを全3話構成で紹介していくというもの。

 はっとさせられるのは、上述したように今作では時代背景を明確に記している点だ。そう、新型コロナウイルスが流行しはじめた昨年の春――自粛、休業、休校、リモートといった新しい生活の在り方に人びとが戸惑いつつも順応していこうとする様子が、物語の中にも反映されている。

 透矢が前世で失くしたという玉手箱。その中には、竜宮城の美しいお姫様からいただいた、どんな病気も治す薬が入っていた。「浦島太郎」をベースに、遠い昔の流行り病とコロナ禍の現在が重ねあわさる第1話「海の記憶」。

 ほか、恐竜好きな沙也加が、彗星の見える夏の夜に不思議な少年と出会う第2話「星へ飛ぶ翼」。亡き母とのほろ苦い思い出が、沙也加に奇跡をもたらすクリスマス・ストーリー仕立ての第3話「猫たちは光を灯す」が収録。

コロナを筆頭に妖怪アマビエの大ブーム、夏のネオワイズ彗星と、実に奇妙な1年だった2020年を、風早に住むひとりの少女の視点から綴っている。最初はコンビニたそがれ堂の存在を信じていなかった沙也加。だけど弟と共に辿り着いてから、少しずつ祈ること、願うこと、そしてこの世の中には奇跡や魔法があり得ることを受け入れるようになってゆく。

 彼女は祈る。

 人知れず、見えない魔法のお伽話が、この街の――世界のたくさんの人びとを救いますように、と。

 それは著者自身の祈りでもあるように感じられてくる。

文=皆川ちか

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