「三千円の使い方で人生が決まるよ」さまざまな世代の女性が直面する「お金」と「生きること」の物語──『三千円の使いかた』【レビュアー大賞課題図書】

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/9

三千円の使いかた (中公文庫)

著:
出版社:
中央公論新社
発売日:
三千円の使いかた
『三千円の使いかた』(原田ひ香/中央公論新社)

『三千円の使いかた』(原田ひ香/中央公論新社)というタイトルを見たとき、一番に思い浮かんだのが「CDのアルバム1枚」という“三千円の使いかた”だった。90年代後半に思春期を過ごした私にとって、三千円で買えるものは、CDのアルバム1枚、シングル3枚、ライトノベルが5冊、コミックスを8冊買うには少し足りないから7冊とミスドのドーナツひとつ。いまだにそういった単位で三千円をとらえていることに気がついて、苦笑いが浮かんでしまった。当時から音楽や本が好きで、聞いたり読んだりすることが仕事になった。「人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った」という本書の1行目を、私はそのまま体現していた。

 人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った。
 え? 三千円? 何言っているの?
 中学生だった御厨美帆は、読んでいた本から顔を上げた。
「人生が決まるってどういう意味?」
「言葉どおりの意味だよ。三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局、人生を形作っていく、ということ」

 第1話「三千円の使いかた」の主人公・御厨美帆は、ほんの少し前まで人生に満足していた。大学を無事卒業して、就職し、一人暮らしをするという、ここ数年間の目標を達成することができたからだ。しかし、会社で美帆の教育係だった44歳の先輩・街絵さんがリストラされたことで、美帆の自信と安心は揺らぐ。自分は、安定した場所にいるわけではなかった。今のように若いうちはいいとしても、ちょっと歳を取ってしまえば、ぽいと放り出されてしまうかもしれない──。

 これから先、どのように生きていけばいいのだろう。大きな不安を抱えた美帆は、住まいの近くの中目黒駅前で、保護犬猫のボランティアを見かける。そこで保護犬に触れた彼女は、ペットが飼えるマンションや一軒家を買うという、新たな目標を思いつく。今の不安を解消するには、小さな安心を少しずつ積み重ねていくほかないのだ。しかし、現在の貯金は約30万円。美帆は一念発起して貯金や節約をはじめるが、彼女には譲れないものもあり……。

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 本書には、24歳の会社員・美帆をはじめ、結婚前は証券会社に勤務していた29歳の姉・真帆、親友が熟年離婚をすると言いだした55歳の母・智子、そして、老後の資金が足りなくなることを恐れている73歳の祖母・琴子と、さまざまな世代の女性たちが登場する。彼女らは、おのおの人生の岐路に立ち、読み手が共感せずにはいられないそれぞれの危機に直面している。御厨家の女性たちは、みずからのお金と人生をどうとらえ、どのように向き合っていくのか。気がつけば、読み手は「自分ならどうする?」とリアルなシミュレーションをしながら、ページを繰ることになる。

「生きること」とは切っても切れない「お金のこと」を、誰もが楽しみながら考えられる家族小説。手に取る前と読了後では、あなたの“三千円”のとらえ方、使い方にも、変化が生まれているに違いない。

文=三田ゆき

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