読後呆然!「王様のブランチ」でも話題に。100%騙される戦慄ミステリー『花束は毒』

文芸・カルチャー

公開日:2021/11/2

花束は毒
『花束は毒』(織守きょうや/文藝春秋)

 世の中には知らない方が幸せでいられる事実がたくさん転がっている。知らぬが仏。聞かぬが花。たとえば、大切な人の過去がその一つだろう。知ったところで誰も幸せになれないと分かっていても、あなたは大切な人の過去を知りたいと思うだろうか。真実を知って苦しむ方がいいのか、それとも、何も知らないまま過ごすのがいいのか。

『花束は毒』(文藝春秋)は、身近な人の過去、知りたくもなかった真実と向き合う戦慄ミステリー。TBS系情報番組「王様のブランチ」で取り上げられたこともあり話題沸騰中の作品だ。作者は、「記憶屋」シリーズで知られる織守きょうや氏。「記憶屋」シリーズは、泣けるほど切ないホラーとして話題となったが、探偵が活躍するミステリーの本作もホラー要素は色濃く表れ出ている。それは凄まじい恐ろしさで、罠に次ぐ罠と寒気に、泣き叫びたくなるような心境に駆られる。

 主人公は、大学生の木瀬芳樹。ある時、彼は、かつての家庭教師・真壁研人と再会した。医学部を辞め、現在はインテリアショップの店長をしているという真壁は結婚間近。だが、婚約直後から彼の家には「結婚をやめろ」という脅迫状が何通も届いているらしい。木瀬は探偵に調査を依頼すべきだと進言するが、真壁はなぜか動こうとしない。どうしても真壁を助けたい木瀬は、彼の代わりに探偵事務所を訪れる。そこにいたのは、「所長代理」を名乗る探偵・北見理花。木瀬の中学時代のひとつ上の先輩だった。

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 中学時代、北見は「探偵見習い」を名乗り、学校中の問題を解決していた。クラスメイトからの陰湿ないじめに悩んでいた木瀬の従兄を救ったのも彼女だった。だが、問題を解決するためなら手段を選ばず、いじめの首謀者をとことん追い詰めた北見の行動は、木瀬の心に禍根を残した。突然の再会に複雑な思いを抱く木瀬。しかし、北見の能力の高さを知る彼は、真壁の代わりに、脅迫事件の調査を依頼することを決意する。そして、北見の相棒として、ともに脅迫事件の調査に臨むことになるのだ。

 木瀬と北見はまるで正反対だ。検察官の父親を持ち、自身も法律を学んでいる木瀬は、誰よりも強い正義感をもっているが、まっすぐ育てられてきたが故に、人を疑うことを知らない。一方で、北見は、人を疑うことを生業とするプロの探偵だ。法律第一、いつだって「正しさ」を求める木瀬と、ときにはイリーガルな手だって厭わない北見。どう考えたってバランスの悪い2人が進める調査は時にハラハラさせられてしまう。

 次第に明らかになるのは、真壁の隠そうとしていた過去だ。脅迫事件の全体像は意外とすぐに見えてはくるが、最後の数ピースがなかなか埋まらない。そう思いながら読み進めていくと、クライマックスで、今までとんでもない勘違いをしてきたことに気づかされる。二転三転する世界。考える間もない、突然の暗転。登場人物に感情移入しながら読み進めてきた分、絶望も大きい。残酷な真実が深く胸へと突き刺さってくるのだ。

先輩は僕の目を見て、静かに、はっきりと言った。
「知りたくないなら、今言って」

 正しさとは何なのか。幸せとは何なのか。驚愕のラストシーンの先、この本には、毒が仕掛けられていたということに気づく。読後、しばらく呆然としてしまう。騙され、絶望するだろう。ミステリー好き、ホラー好きなら必読。あなたもこの戦慄ミステリーをぜひとも味わい尽くしてみてほしい。

文=アサトーミナミ

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