誰でも発症する可能性あり。うつは「心の骨折」みたいなもの/家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

暮らし

公開日:2022/11/10

建築会社営業:Aさん(40代・男性)のケース

 Aさんは、明るい性格でお客様からの信頼も厚い優秀な社員。週末には子どものサッカーチームのコーチをするようなスポーツマンでした。

 景気が悪いときも営業成績を上げ、何度も表彰されていたため、仲間から尊敬されるだけでなく、部長からも「Aさんがやりたいようにやっていいよ」と言われ、信頼されていました。

「Aさんはストレスなんか、なさそうですね」と周囲の人から聞かれると、決まって笑顔で「そうだね、お客様の笑顔を見たいから、ストレスなんて感じている暇なんてないよ」と答えていました。

 そんなAさんの様子が変わっていったのは、部長が交代して半年が過ぎた頃。新しい部長は、Aさんに細かく報告を求め、やり方を指示するようなタイプでした。

 自分のやりたいように仕事ができなくなったAさんは、何度か部長と話し合いましたが理解してもらえず、報告のための資料作りやお客様への説明資料の作成で残業が増えていきました。

 Aさんから笑顔は消え、顔色も悪くやつれた様子を周囲が心配していた矢先、Aさんは出勤できなくなり、うつ病と診断され休職することになりました。

 職場の同僚は誰ひとりとして、Aさんがうつ病になるとは思っていませんでしたが、一番驚いていたのはAさん自身でした。

 

「うつになりやすい性格がある」というのは、単なる学問上の比較のことです。

 新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の例で考えてみましょう。「東京は岩手よりコロナ罹患率が高い」というデータがあっても、東京に住むすべての人がコロナに感染するわけではありません。逆に言うと、岩手に住んでいてもコロナに感染する可能性があります。

 同じく、Aさんのように明るく前向きで、プレッシャーをはねのけるような人でも、うつ病になります。

 つまり、うつになる、ならないは、現実的には性格とはほとんど関係ないのです。

 

うつ病は「心の風邪」?「心の骨折」?

「うつ病は心の風邪」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。

 1998年に自殺者数が3万人を超え、社会的な問題となるなか、自殺の要因についてさまざまな調査がなされ、うつ病などの精神疾患との関連が大きいことがわかってきました。

 ところが、うつ病がまだあまり認知されていなかったため、例えば「心が弱い人」「人とうまくかかわれない人」がなる病気という偏見や、「どのように接したらいいかわからない」などの不安を抱える人も多数いました。

 そんなイメージを払拭し、早期発見・早期治療につなげるため、1999年頃、製薬会社が作成したキャッチコピーが「うつ病は心の風邪」というフレーズでした。

 この「うつ病は心の風邪」という言葉によって、「誰でもなる可能性のある病気」「適切な治療をすれば回復する」「かかったと思ったら早めに受診しましょう」というメッセージが伝わり、うつ病は身近な病気の1つとして認知されるようになりました。

 ところが、「風邪」という言葉を使ったために、「風邪のように数日で簡単に治る」とか、「風邪のように軽い病気」といった誤解も与えてしまったのです。

 本当に伝えたいメッセージは、

 うつ病は、

・誰でもかかる可能性がある
・悪化する可能性(ときには命にかかわること)もあるので適切な対処が必要
・徐々に回復し、一見治ったように見えても回復までにはかなりの時間(数週間から数年)がかかる
・元のパフォーマンスが発揮できる状態に戻るにはリハビリが重要

ということです。

 これらをより正しく伝えるために、私たちは、「心の風邪」ではなく、「心の骨折」と表現しています。

家族が「うつ」になって、不安なときに読む本

<第3回に続く>

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