「CMはお前がおもしろいと思ったところで行けよ」糧になった加藤の言葉。極楽とんぼ(加藤浩次・山本圭壱)×宮嵜守史【対談】/ラジオじゃないと届かない①

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公開日:2023/3/25

TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーによる、書き下ろしエッセイ『ラジオじゃないと届かない』(宮嵜守史/ポプラ社)。ラジオに捧げた25年について、ラジオ愛あふれる文章が綴られた1冊。本連載では、本書から、著者とともに番組を作ってきた人気パーソナリティの極楽とんぼ、おぎやはぎ、バナナマン、ハライチ、パンサー向井さんとの豪華対談の一部を、特別に公開します!

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ラジオじゃないと届かない
ラジオじゃないと届かない』(宮嵜守史/ポプラ社)

やるっきゃない精神! 極楽とんぼ

「雨上がり決死隊べしゃりブリン!」が、まだ週末の三十分番組だったころ、急遽ディレクターとして呼んでもらったのが「極楽とんぼの吠え魂」。前任のディレクターが退社することになったのが理由だった。
 菊地プロデューサーからは「雨上がりともやれているんだから極楽とんぼともできるだろ?」みたいな通達だった。僕にとってJ​U​N​Kのディレクターといえば花形だったが、心の準備もできないままの急なJ​U​N​Kデビューだった。

 当時、テレビバラエティの最高峰だった「めちゃイケ」(「めちゃ×2イケてるッ!」)。そこで〝失うものなど何もない〟とばかりに縦横無尽に暴れまわっていた極楽とんぼ。「お笑い偏差値」みたいなものがあるとしたら駆け出しの僕なんかじゃ到底見合わない。二人の足を引っ張るんじゃないかと不安しかなかった。

極楽とんぼ

『吠え魂』に教えられたディレクターの責任

宮嵜 お時間いただきましてありがとうございます。ムチャクチャ緊張していて……。僕がディレクターとして初めて担当した生放送の深夜番組が『極楽とんぼの吠え魂』なんです。

加藤 あれ、初めてか? そんな感じしなかったけどな。

宮嵜 26歳のときです。その数ヵ月前から雨さんのラジオはやっていたんですけど、当時は三十分の録音番組で、まだ『JUNK』枠ではなかったんです。

加藤 前のディレクターは誰だっけ?

宮嵜 僕の直前が砂原(啓二)さんで、その前が今村(芳文)さんです。

山本 砂原さんに、今村さんね。

宮嵜 最初に『吠え魂』で学んだのはCMのことなんです。『JUNK』は、一時台に五回CMを入れなきゃいけないというルールがあるんですが、僕は初めてだったので、まったくわからなくて。お二人にトークバックで「CMに行ってください」って言っても、一向にCMに行ってくれなかったんです。もうこれ以上続けたらパンクするというところで、僕が話の途中で強引にジングルを打って、CMに行ってしまったと。そのとき、加藤さんは色つきのメガネをされていたんですが、CM中にずっと僕のほうを見ていて。

山本 にらんでたんだ。プレッシャーをかけてたんだね。

宮嵜 放送が終わったあと、「ホントにすみません」って謝って、事情を説明したら、加藤さんが「いや、そんなもんはお前がおもしろいと思ったところでぶった切ってもらっていいんだよ」って言ってくださったんです。

加藤 俺、覚えてるよ。はっきり覚えてる。

宮嵜 「それで、リスナーはCMが明けてもまた聴こうっていう気持ちになってくれるんだから、お前がおもしろいと思ったところで行けよ」って言ってくださって。

加藤 いいこと言うねえ(笑)。

宮嵜 それが今でも糧になっているんです。僕はディレクターであると同時に、最初のリスナーでもあるので、「あっ、おもしろい」と思ったところでCMに行ければ、結果リスナーも笑顔のままCMに行き、その続きをさらに聴きたくなるはずだと思って他の番組もやってきました。

加藤 「間違ってもいいんだよ」って言った覚えがある。間違ったとしても、残り何秒かで俺たちが「なんでCMに行くんだよ!」って言うからって。そうしたら、CMが明けたあとにまた話ができるでしょって言った覚えがあるんだよね。

宮嵜 僕の中でホントに衝撃でした。実はそういう文化って、深夜に限らずTBSラジオにはあまりなかったんです。パーソナリティからディレクターに逆キューをすることはあっても。

山本 パーソナリティのほうから?

加藤 そうだよ。知らないの、お前?

山本 知らない。

加藤 俺、当時から知ってたよ。パーソナリティが喋りながらキューを出して、そうしたらディレクターがジングルを叩くっていう。FMでも結構多いよね。

山本 それだと楽だね。ディレクターはパーソナリティだけ見てればいいんでしょ?

加藤 俺はね、仕事って〝全員が責任を持とう派〟なのよ。今だから言葉にできるんだけど。俺らは頑張っておもしろいことを喋ろうとする。で、ディレクターはそのおもしろいところで切って、リスナーが聴きたくなるような構成にするっていう。宮嵜が叩くときって、やっぱ「大丈夫か?」って思うわけじゃない? それって自分の責任じゃない? ワントップで、その責任を負わない感じでやるパターンもあると思うよ。でも、俺は全員でやるべきだと思っているし、今でもそれは変わらないんだよね。

宮嵜 当時の僕はその言葉を聞いて、そういうやり方があるんだと驚きました。

加藤 俺はそんなのどこで覚えたのかな? 覚えたっていうか、感覚だろうな。

山本 俺なんか、そうだったって今知ったもん。

加藤 お前は番組が終わったらすぐ帰ってたからな。

宮嵜 放送中にペンをいじって、キャップをバカにさせて帰るんですよね。

山本 あと、クリップを真っ直ぐにしてね。

宮嵜 そのときに、ディレクターがキューを出して、ミキサーがフェーダーを上げるという動作が、僕の中では半テンポ遅れる感じがしたので、そこからサンプラーを『吠え魂』用に用意したんです。

加藤 自分で叩けるようにしたんだよね。

宮嵜 そこから段々とそれがTBSラジオ全体に浸透していったんですよ。お昼のワイド番組でも、そういうやり方をみんなやるようになって。それまでは怖さを感じて、ビクビクしながら仕事をしていたところがありましたけど、「今日もリスナーに笑ってもらおう」ってやり甲斐が持てて、そこから『JUNK』がすごく楽しくなりました。お二人に関してはこの話に尽きる部分があります。

怖かった山本から受けた洗礼

加藤 お二人じゃないでしょ? 俺でしょ?

宮嵜 はい。加藤さんです(笑)。

山本 まあ、俺がいるから、そういう場がなごむんだからさ。

宮嵜 山本さんからの洗礼もありました。ディレクターをやらせてもらいますとお伝えした前後で、山本さんにグッチ裕三さんのお店に誘ってもらったんです。

山本 『うまいぞお』に行ったんだ。

宮嵜 そこで僕は気に入られようと思って、ちょっとしたウケ狙いの話をしたときに、山本さんが一切笑わなかったんですよ。

山本 噓だ。

宮嵜 「そういうのは芸人に通じないよ」って言われたんです。今考えれば、知り合ったばかりの素人が芸人さんを笑かそうとしてちょっとしたエピソードトークしてくるみたいな感じだったと思います。ホントに恥ずかしいですけど。

山本 全然覚えてない。

加藤 だって、当時の山本は今の山本と違うもんね。俺より怖かったと思うよ。

山本 そんなことないでしょ。

加藤 いやいや、当時の山本って裏では俺より怖い感じがあったよね。俺は色メガネをかけたりして、初見は怖そうだけど、絶対にお前のほうが怖かったと思うよ。

山本 そんなことない。ニコニコしてたでしょ?

加藤 いやいやいやいや、俺がメールチェックをしていると、いつも遅れて機嫌悪そうにスタジオに入ってきてさ。

宮嵜 で、耳掃除して、UCCのブラックコーヒーを飲んで。

加藤 俺より先に来たことないよね。あの頃はホントに「これ、加藤がやってるから、俺は別にいいでしょ?」みたいな空気を出してたよ。

宮嵜 スペシャルウィークの企画も、山本さんと相談したことはなかったです。

加藤 今だから言うけど、ラジオが三時に終わるじゃん。そのあと、俺、宮嵜、工務店、オークラで五時ぐらいまで残っていたことあったよね? 「スペシャルウィークどうする?」みたいな。

山本 言ってくれたらよかったじゃん!

加藤 いや、あのときはあのときで、俺はお前がいると邪魔だったんだよ(笑)。

山本 まあでも、たぶん俺らはそんな感じじゃない? 二人でやるより、加藤一人に任せて、俺は泳がされる。俺も実行犯みたいなほうがやりやすかったから。

加藤 あのときってさ、宮嵜は大抜擢だったの?

宮嵜 だと思います。

加藤 やっぱそうなんだ。そんな感じはあんましてなかったんだよなあ。宮嵜の第一印象は、最終回にも言ったみたいだけど……ホントに顔と体のバランスが悪い男だなと(笑)。

山本 肩幅がちょっと人より狭くて、顔が人よりもちょっと大きくてね。

加藤 でも、可愛げがあって、愛されキャラだったよね。宮嵜にはいろいろ残っているのかもしれないけど、俺らは悪い印象ってまったくないんだよね。

山本 全然ない。ディレクターが宮嵜に代わって、前のめりな気持ちが伝わってきたのはたしかだね。年齢がグッと下になったんで、深夜帯の人が来たんだなって。だから、ご飯にも行ったんだよね。

宮嵜 僕は『吠え魂』と、雨さんの『べしゃりブリンッ!』でもディレクターになったので、二曜日も『JUNK』をやるって若手ディレクターではほとんどないケースだったんです。

加藤 すごいね。関わったコンビの片方はもう吉本じゃないじゃん。

宮嵜 疫病神じゃないかって(笑)。

山本 でも、今担当しているおぎやはぎはちゃんとしてるもんね。

宮嵜 僕、両方の番組が同時に聴取率一位になってから、ヒゲを生やしているんです。験担ぎで。鬱陶しいエピソードですけど。

加藤 聞きたくなかったな(笑)。

パーソナリティを笑わせればリスナーも笑う

宮嵜 ディレクターになり立てのときに、ツインリンクもてぎに山本さんが別の仕事で行ったことがあったんです。僕も現地まで行って、DATを担いで山本さんがレースの実況をする音声を録ったんですね。それを編集して、『吠え魂』で流したんですけど、メチャクチャおもしろくなくて……。加藤さんもオンエア中に山本さんに言う形で「なんだ、これ? ちっともおもしろくねえな」とおっしゃったんですよ。これは完全に僕のせいだと思いました。

加藤 それは違うと思うよ。

宮嵜 それから笑ってもらうための作り方とか、間だとか、音源のどの部分を選ぶかも真剣に考えるようになりました。音素材を作るなら、まず加藤さんを笑わせようと。加藤さんが笑えば、絶対リスナーも笑ってくれる。それを意識して作ると、リスナーからの反応もいいんです。

加藤 宮嵜がそんなことを考えていたとは思わなかったよ。でもね、ツインリンクもてぎの件は、山本に対して言っていたと思う。宮嵜には言ってないと思うよ。

山本 たぶんレースに出たんだろうね、俺。ファンの人も来ていて、送ってもらった写真がうちに残ってる。俺がセグウェイに乗ってたんだっけ?

宮嵜 ヘー面(づら)でセグウェイに乗ってました。やっぱり焦点がぼけてたんですよね。何をしたいのかがハッキリしないままだった。ロケに行って雰囲気だけを伝えるものになってしまって。

加藤 それってさ、ラジオではよくあるやつじゃん。現場に行って、雰囲気だけ伝えるってことはあるよね。

宮嵜 でも、深夜に極楽とんぼが喋るラジオにおいては、どこをおもしろがって、どうやって笑いにするのか、ちゃんと先に目的を頭に入れて録らないとダメだと思いました。

加藤 いや、それは自分の学びにした宮嵜がすごいんじゃないの? 「こいつら、腹立つなあ」で終わるテレビディレクターやラジオディレクターはいっぱいいると思うよ。それをプラスの方向に咀嚼したからよかっただけで。そもそも、俺らは宮嵜にこうなってほしいからなんて微塵も思ってなかったし(笑)。

宮嵜 もう一つ、僕が『吠え魂』でお二人に学んだのは、外での中継企画なんです。『吠え魂』が初めてだったので、二時間でどうおもしろくすればいいのか、ノウハウも全然わかってない状態でした。

加藤 まあ、俺らも、基礎的な人間じゃないからな。亜流中の亜流だから。申し訳ないね、最初が亜流で。

宮嵜 いいえ、僕の中でものすごく役立っています。中継ではお台場の潮風公園からの二時間生放送が強烈に心に残っていて。山本さんがt.A.T.u.の『Gomenasai』を歌うライブという。

加藤 あったね。リスナー集めて。

宮嵜 基本的に『JUNK』ってディレクターは一人だけじゃないですか。だから、全部一人でやらせてもらったんです。事前に潮風公園に許可申請を出したり、寒いからジェットヒーターをレンタルしたり。朝から公園に行って、ブルーシートで山本さんが隠れる小屋も設営しました。そうしたら、加藤さんが「山本に内緒で、俺も潮風公園の近くからやれないかな」っておっしゃったので、サテライトスタジオも探しました。今考えると、一人のディレクターが切り盛りする規模じゃないというか。ホントに思い出に残ってます。僕の中では無事におもしろくできたのでよかったです。

山本 寒かったもんね。

加藤 大変だったな。結構リスナーが集まってくれたんだよね。

宮嵜 たくさん集まりました。終わったあと、リスナーは電車がないだろうから、二十四時間やっているファミレスを調べて、マップを作って、リスナーに配ったんです。

山本 終わったのは深夜三時だもんね。

宮嵜 リスナーから「おもしろかった」という反響のメールがたくさん来て、大変だったけどやって良かったと思いました。

山本 それこそ、俺が百貨店の催事で肉巻きおにぎりを売っていたときも、武闘派リスナーがたまに来てたんだけど、地方に「潮風公園に行ってました」という人が何人かいたもん。

宮嵜 外での中継ものでいうと、化けレポートも覚えてます。霊能者的な人をブッキングして。

山本 霊能者の人に檜(ひのき)が「この子は怖い子だ。どうにもならない」なんてケチョンケチョンに言われて、家の四隅に塩を置かせるみたいな話があったなあ。覚えてる?

加藤 全然覚えてない。俺は、あれを覚えてるんだよ。セクシーアイドルから霊能者になった子がいたじゃない? あの子は完全に人の立ち位置を見て前世を言うんだよ。俺がリーダーみたいにやってるから、「加藤さんは片目に眼帯してる、武将みたいな姿が見える」って、独眼竜政宗みたいなことを言って。「こいつは?」ってオークラのことを聞いたら、「うーん……犬?」って言ったんだよね(笑)。あれがおもしろくて。

宮嵜 たしか一緒にいた矢作(兼)さんのことは町の商人と言っていた気がします。

加藤 今は犬が一番出世してるんだよな。

宮嵜 化けレポートの最中でも、中継をおもしろくするために、加藤さんが矢作さんをつねったりするんですよね。

加藤 やってたね(笑)。

宮嵜 それが僕の中に残っていて、だいぶあとなんですが、爆笑問題さんの『日曜サンデー』という午後のワイド番組があって、そこでハライチが赤坂サカスに出て中継する企画があったんです。僕がディレクターをやっていたんですけど、なにも起きずにおもしろい中継にならなかったので、「ああ、そうだ」と思って、加藤さんを真似て僕が澤部(佑)君の腹をつねったんですよ。

加藤 おお(笑)。そうしたら?

宮嵜 澤部君は我慢できずに「イテテテテ」って言って。でも、えらいなと思ったのは、澤部君はそのまま続けたんですよね。「サカスには元気なお客さんがいるみたいで」とか言って。ここでやるべきじゃなかったと思ったんですけど、『吠え魂』で学んだことが今の僕を作っているのは間違いないです。

加藤 そう言っていただけたら、嬉しい限りですよ。恨みしか持たれてないかと思っていたから。

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宮嵜守史● 1976年7月19日生まれ、群馬県草津町出身 ラジオディレクタ̶/プロデューサー TBSグロウディア イベントラジオ事業本部 ラジオ制作部 所属 TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサー 担当番組「伊集院光 深夜の馬鹿力」「爆笑問題カーボーイ」「山里亮太の不毛な議論」「おぎやはぎのメガネびいき」「バナナマンのバナナムーンGOLD」「アルコ&ピース D.C.GARAGE」「ハライチのターン」「マイナビラフターナイト」「ハライチ岩井ダイナミックなターン!」「綾小路セロニアス翔 俺達には土曜日しかない」 YouTubeチャンネル「矢作とアイクの英会話」「岩場の女」ディレクター