宮沢賢治『やまなし』あらすじ紹介。「やまなし」って何?「クラムボン」の正体とは? 蟹の兄弟の日常を描いた童話

文芸・カルチャー

更新日:2023/4/4

 宮沢賢治は、日本を代表する童話作家の一人であり、そのなかでも『やまなし』という作品は小学校の教科書で読んだという方も多いのではないでしょうか。もう一度読み返してみると、子どものときとは違った感想を抱くかもしれません。

 今回は、宮沢賢治の『やまなし』について、その作品解説と登場人物、あらすじをご紹介します。


やまなし

『やまなし』の作品解説

『やまなし』は岩手県出身の詩人で童話作家である宮沢賢治が1923年に「岩手毎日新聞」上に発表した童話です。宮沢賢治の生前に発表した数少ない童話のうちの1つで、蟹の兄弟の日常の風景を豊かな表現力で描いた作品です。

「クラムボン」という正体不明のものが登場することも印象的な作品で、クラムボンの正体についてはさまざまな議論がされています。それが光であるという説や、アメンボであるという説、さらには解釈する必要がないものという説まで、多様な説があります。

『やまなし』の主な登場人物

蟹の兄弟:谷川の底で暮らしている。本作の主人公。

お父さんの蟹:蟹の兄弟の父。

かわせみ:時折川の中に飛び込んできて魚を捕食する魚。蟹の兄弟にとっては怖い存在。

『やまなし』のあらすじ​​

 小さな谷川の底を写した2枚の青い幻燈(スライド)があった。

 五月。2匹の蟹の兄弟が青白い水の底で話をしていた。それはクラムボンについての話である。上や横の方は青く暗く、鋼のように見える。つぶつぶと泡は流れていき、それを見た蟹の兄弟も5、6粒の泡を吐くのであった。蟹の頭上を、1匹の魚が銀色の腹をひるがえして通っていった。

「クラムボンは死んだよ。」
「クラムボンは殺されたよ。」
「クラムボンは死んでしまったよ………。」

 なおも蟹の兄弟たちの会話は続く。魚が行ったり来たりするたびに太陽が隠れ、辺りは暗くなったり明るくなったりを繰り返す。

 蟹の兄弟が魚を見ていると、突然鉄砲玉のようなものが飛び込んできて、魚をさらっていった。蟹の兄弟が恐怖でぶるぶると震えていると、お父さんの蟹が出てきた。お父さんの蟹は、蟹の兄弟に飛び込んできたのはかわせみであると教え、大丈夫だと慰めるが、幼い蟹の兄弟の恐怖は取れなかった。

 太陽の光の網はゆらゆらと伸びたり縮んだりし、カバの花びらの影が静かに砂を滑っていた。

 十二月。成長した蟹の兄弟は、月が明るく水がきれいなので眠りにつかず、外に出て互いが吐いた泡の大きさを比べていた。そこに、お父さんの蟹が出てきて、もう寝なさいと言ったが、弟の蟹は自分の泡の方が大きいと涙ながらに言い張り食い下がる。

 そのとき、トブンと何かが川の中に落ちてきた。かわせみだと蟹の兄弟が声を上げるが、お父さん蟹がよく見ると、それは「やまなし」だった。匂いにつられてやまなしを追いかける三匹。やがて、やまなしは木に引っかかって止まった。美味しそうだったが、お父さんの蟹は、やまなしの酒ができるまで待とうと兄弟を諭し、親子の蟹は三匹、自分らの穴に帰っていった。

 ゆらゆらと青白い焔をあげる波は、まるで金剛石の粉をはいているようだった。

 そして、幻燈はここで終了する。

<第60回に続く>

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