カフカ『変身』あらすじ紹介。ある朝、目が覚めると巨大な毒虫になっていた――

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/1

 チェコを代表する作家、フランツ・カフカの『変身』は不条理文学、実存主義文学の傑作として名高い作品です。海外文学は日本文学とは違った雰囲気で取っ付きにくい作品もありますが、本作は中編で読みやすい作品です。今回はそんなカフカ『変身』について、作品を解説し、登場人物とあらすじをご紹介します。


変身

『変身』の作品解説

『変身』は、チェコ出身の作家フランツ・カフカによってドイツ語で書かれた小説であり、1915年に雑誌に発表され、同年の冬に出版されました。

 虫になってしまった主人公グレゴール・ザムザの生涯を3章構成で描いています。異種への変身の孤独や不安などを描き出しつつ、どことなくユーモラスな表現もあることが特徴です。

『変身』の主な登場人物

グレゴール・ザムザ:外交販売員。ある朝、虫になってしまう。

父親:グレゴールの父親。5年前に破産して現在は無職。

母親:グレゴールの母親。喘息持ちで足が不自由である。

グレーテ:グレゴールの幼い妹。虫に変身したグレゴールの世話をする。

『変身』のあらすじ​​

 布地の外交販売員、グレゴールは、父母に代わり一家を養うために日々働いていた。

 ある朝、彼は巨大な毒虫になっていることに気づく。疲労か幻覚か、と突然のことに戸惑いながらも彼は二度寝を試み、今の仕事と両親の借金に対しての不満を募らせる。

 起きてこないグレゴールを心配した家族や勤務先の支配人が部屋を訪れ、彼は慌ててベッドから這い出ようとする。怠慢を非難する支配人に、グレゴールは必死になって弁解するが、言葉が全く通じない。

 ついにグレゴールは顎で鍵を開け、その姿を晒してしまう。母親は気を失い、父親は泣き出し、支配人は声を上げて逃げ出した。支配人に追いすがろうとするグレゴールだったが、父親にステッキで部屋に追い立てられる。

 その日以来、彼は自室に隔離され、妹のグレーテだけが身辺の世話をしてくれた。見た目だけでなく味覚もすっかり変わり、腐りかけの野菜やチーズを好む姿を妹は内心嫌悪していたが、グレゴールも気を遣って妹の前では寝椅子の下に隠れていた。

 彼はそのうち、壁や天井を這い回れるようになった。妹は邪魔になる家具を母親と一緒にどけてあげようとするが、人間だった痕跡を消したくないと考えて壁にへばりつく彼を母親が見てしまい卒倒。仕事から帰宅した父親は憎き毒虫にリンゴを投げつけ、彼は重傷を負った。

 リンゴは銃弾のように背中に残り、1ヶ月もの間彼を苦しめる。その間に母も妹も働き口を見つけ、彼の世話どころではない。女中は解雇され、代わりに年老いた大女が雇われたが、彼女はグレゴールを頻繁にからかいに来た。さらに家の一室は3人の紳士の貸部屋となり、グレゴールの自室は物置同然になってしまう。

 ある日、グレーテが紳士たちの前で演奏してみせたバイオリンに感動し、グレゴールは部屋から這い出てきてしまう。気づいた父親は慌てて紳士たちを部屋に戻らせようとするが、無礼と受け取った紳士たちは怒り、下宿代も払わず出ていってしまったため家族は失望。妹ですらグレゴールを見捨てるべきと言い出し、父親も同意する。グレゴールは最期に家族の姿を目にし、痩せ細った身体で自室に戻ると、家族愛を思い出しながら息を引き取った。

 翌朝、干からびたグレゴールの遺骸は大女がすっかり片付けてしまった。家族は各々欠勤し、3人連れ立って散策へ出かける。紆余曲折はあったがみな仕事にも恵まれ、グレーテも美しく成長した。そろそろ婿を取らないとな、と両親は考え始めるのだった。

<第59回に続く>

あわせて読みたい