柳田國男『遠野物語』あらすじ紹介。馬と夫婦になった娘。秘密を知った父は… 怪異の世界の物語を綴った説話集

文芸・カルチャー

公開日:2023/4/30

 土着の信仰や風習・妖怪が数多く登場し、民間伝承をモチーフとした後世の伝奇作品にも少なからず影響を与えている『遠野物語』。民俗学のエッセンスに溢れた魅力ある一冊です。

 そこで今回は柳田國男『遠野物語』をわかりやすく解説します。文語調がとっつきづらいという方も、ぜひ触れてみてください。

遠野物語

『遠野物語』の作品解説

 民俗学者である柳田國男が著した『遠野物語』は、佐々木喜善から伝え聞いた民話に、現地での見聞・調査による補完を加えて完成しました。怪異にまつわる話を過度な編集なく書き記したこの物語は、難解とされていた前著『石神問答』と比べて売れ行きも順調で、かの文豪・芥川龍之介も購入し「大へん面白く感じ候」と評しました。またフィールドワークによる裏付けもあったことから、後世では民俗学の先駆けとして評価されています。

『遠野物語』の主な登場人物

佐々木鏡石:遠野出身の民話蒐集家で、この物語を語った佐々木喜善の筆名。

遠野郷の人々:実名の人物が多数登場する。佐々木喜善の周辺人物が多いほか、山口村や近隣地域の人々も。

『遠野物語』のあらすじ​​

 これらの説話は、遠野出身の佐々木鏡石から聞いた伝聞とされている。

 過去は一帯が湖であったという伝説もある盆地・遠野。この地を取り囲む遠野三山は、女神が3人の娘にそれぞれ分け与えたものであると伝えられ、神職の巫女ですら立ち入れば石にされてしまった逸話が残るなど、戦前まで女人禁制で、霊験あらたかな山々だった。

 遠野では黄昏時に子女が忽然と消え去ることがあり、そうした「神隠し」つまり誘拐事件や発狂による遭難、人里を離れる危険性などを「山人」の存在と関連付けていた。

 また家神・土地神信仰も根付いていて、旧家に祀ると幸運がやってくるという「オクナイサマ」や「オシラサマ」、子宝の神「コンセサマ」、繁栄をもたらす「ザシキワラシ」といった神々が祀られていた。

 村内の池沼や里山、はたまた獣など自然にまつわる由来や伝承だけでなく、河童の存在といったあやかしの類にも触れている。家のものを持ち帰った遭難者に富をもたらす「マヨヒガ(迷い家)」の伝説。馬と夫婦になった娘を許せず、馬の首にすがる娘を無視して切り落としたら娘がそのまま天に昇って神になったという「オシラサマ」の成り立ち。臨死体験をした男の話、幽霊、魂の供養、豊穣祭、山姥など実に多種多様な風習・信仰・民話が語られていく。

<第70回に続く>

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