好奇心に負けて約束を破り、配信を観てしまった。すると一通のメッセージと、窓の外から音が聞こえ…/名著奇変(山月奇譚)⑧

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/22

名著奇変』(柊サナカ、奥野じゅん、相川英輔、明良悠生、大林利江子、山口優/飛鳥新社)第8回【全8回】

日本文学の名作を若手実力派作家たちがリメイクした、短編ホラーミステリ集『名著奇変』(柊サナカ、奥野じゅん、相川英輔、明良悠生、大林利江子、山口優/飛鳥新社)。ベストセラーのDNAを存分に活かしながら、現代の小説家が極上のミステリーに生まれ変わらせました。その中から、中島敦『山月記』をベースにした『山月奇譚』(山口優:著)をご紹介。じわじわと追い詰められていくような感覚に陥る現代ホラーをお楽しみください。

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名著奇変
『名著奇変』(柊サナカ、奥野じゅん、相川英輔、明良悠生、大林利江子、山口優/飛鳥新社)

「こんばんトラ! たくさん来てくれて嬉しいトラー!」

(語尾がトラかよwww)

 そうコメントが流れる。

 私、山口は、帰ってからRI☆CHOの初配信というのを見ていた。袁田氏にはああ約束したが、好奇心に負けてしまったのだ。

「RI☆CHO☆ちゃん☆ねる」は、初配信の動画一つだけのコンテンツだったが、未だ残存していた。

(本当にあったとは……)

 私はコメントをしばらくじっと見ていた。

 そして、突然配信がぷつりと止まる。

「あれ? 配信環境が悪いトラ! ごめんトラ! 今日はご挨拶だけで、明日同じ時間にもう一度配信やり直すトラ!」

 RI☆CHOがそう言って、止まったのだ。若干遅れて、コメントが流れてきた。

 その中に、やはり、RI☆CHOの正体を指摘するようなコメントがあった。

「その声は、我が友、袁田サナではないか?」

 コメントは、そう言っていた。

 そこで動画は終わっている。

(なんだって……『袁田サナ』……?)

 私は驚愕する。そして、RI☆CHOの声。明らかに聞き覚えのある声だ。

(……この声)

 私は、夕方、渋谷の喫茶店で相対していた編集者の声を思い出していた。

(……演技でかわいく作っているが、間違いない。袁田氏の声だ)

 つまり、RI☆CHOを演じていた、『泰賀李徴子』が、今の袁田サナだということになる。よく見ると、RI☆CHOの声が袁田サナだと指摘するコメントの名前は、勿論『Sana Enda』ではない。

(じゃあ、ここで書き込んだ人物はどうなったんだ?)

 私はそこで気付いた。

 袁田氏は、ウソは二つあると言っていた。

 一つは、泰賀李徴子というのが偽名であること。

 もう一つは何だったんだ?

 そこで『私』は、脳裏にぱっと恐ろしい考えが閃いた。

(ああ、そうか、『私』というのがウソだったんだ。……袁田サナは、加害者と被害者の視点を入れ替えて語っていたんだ……)

 そのとき、LINEからメッセージが来た。袁田氏だ。

「もう気付きましたよね、山口先生?@窓の外」

 窓から音が、した。

 きいきい。

 きいきい。

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