ダンテ『神曲』あらすじ紹介。地獄は地球の中心にあった!? 地獄、煉獄、天国を巡るダンテの旅

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/22

 ダンテの『神曲』について、作品名は聞いたことがあるけれど内容は知らないという方は多いのではないでしょうか。日本人にはなじみが薄く難解な作品ですが、多くの芸術家に影響を与えた世界的な名著であり、西洋美術を鑑賞する上でも欠かせない存在です。今回はダンテの『神曲』について、わかりやすく解説します。

神曲

『神曲』の作品解説

 13世紀から14世紀にかけて活躍したイタリアの詩人・政治家ダンテ・アリギエーリ作の『神曲』は、イタリア文学最大の古典といわれる長編叙事詩です。政争に敗れ、故郷フィレンツェを追放されたダンテは各地を転々としながら『神曲』を発表しました。作者ダンテが自分の物語として一人称で語る本作は、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3部で構成されています。三行を一連とする「三行韻詩」(あるいは「三韻句法」)の詩型が用いられ33歌で構成されるなど、キリスト教の教義の「三位一体」に基づき聖数「3」にこだわった作品です。

『神曲』の主な登場人物

ダンテ:天才的な詩人であると同時に要職を担当するほどの政治家。この物語の語り手であり主人公でもある。

ベアトリーチェ:ダンテが幼少の頃から心惹かれていた女性。24歳で夭逝するが、天国の住人としてダンテを導く。

ウェルギリウス:ダンテが心酔する実在の古代ローマの有名な詩人。ベアトリーチェの依頼でダンテを地獄から煉獄へと案内する。

『神曲』のあらすじ​​

 ユリウス暦1300年の復活祭前の聖金曜日、暗い森の中に迷い込んだ35歳のダンテはウェルギリウスと出会う。彼の案内で地獄、煉獄を巡った後、ダンテは幼少の頃から恋い焦がれていた女性であるベアトリーチェに再会し、彼女の導きで天国へたどり着く。

【地獄篇】

 ウェルギリウスの案内のもと、地獄を訪れたダンテは神話上の人物や歴史上の人物に出会う。彼らは生前に犯した罪により地獄で永遠の罰を受けており、その様子が克明に描かれていく。

 地獄はエルサレムの真下の地下深く、堕天使ルシフェルが天界から堕とされた際にできた大穴で、9つの円があり、下にいくにつれて狭く、すり鉢状の層になっている。2人は洗礼を受けていない者が罰せられる第一層「辺獄(リンボ)」を皮切りに、犯した罪とそれに応じた罰の苛烈さが高まる下層へ下りていく。第五層「憤怒に駆られた者」と第六層「異端の者」の間には炎に包まれた「悪魔の城塞」があり、そこから刑罰はさらに激化の一途をたどるのであった。

 極寒の第九層「コキュトス」の最深部を超えるとそこは地球の中心、つまり重力の中心であった。そこで3つの顔をもつ悪魔大王を目にした一行は、「すべてを見た」として重力の反対側、煉獄へ上っていく。

【煉獄篇】

 ウェルギリウスに案内され、エルサレムから地球の裏側、天国と地獄の中間にある煉獄にたどり着いたダンテは、登るごとに罪が清められる「煉獄山」を登っていく。煉獄山は7つの大罪(強欲・色欲などの欲望)に対応した7層からなり、生前に告解できなかった罪でも、死後にこの場で清められることで天国へと昇っていくことができる。また、生前より多く善行をなし、現世でその死者のために祈る者がいれば、清めは早く進むともされた。

 山を登り、額に表れた7つの大罪の痕を消し去ったダンテは、山頂でベアトリーチェと出会い、天国へと案内される。

【天国篇】

 天国へ入ったダンテは、聖人たちと語り合い、天国の上層階を目指す。神の坐す「至高天」まで昇り詰めたダンテは、この世を動かすものは神の愛であることを知る。

<第75回に続く>

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