小説『真珠夫人』あらすじ紹介。復讐のため男たちを弄ぶ毒婦。破滅フラグ立ち過ぎな悪女の運命は…!?

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/24

真珠夫人』は著者の菊池寛にとって、初の新聞小説でした。当時大ブームを巻き起こし、新聞小説の見方に影響を与えたと言われています。執筆された1920年以降、何度か映像化されているので、すでに内容をご存じの方もいるかもしれませんが、原作小説を読んだことがない人も多いのではないでしょうか。今回は原作小説である、菊池寛『真珠夫人』のあらすじを分かりやすくお伝えします。

真珠夫人

『真珠夫人』の作品解説

 菊池寛による通俗小説である『真珠夫人』は、1920年6月9日から同年12月22日まで大阪毎日新聞と東京日々新聞に同時連載されていた作品です。作中で「妖女」と表現される瑠璃子の奔放な言動と、その最期が当時の新聞読者や小説家から多くの評価を集めました。

『真珠夫人』の主な登場人物

壮田瑠璃子:夫の死後、財力と魅力を振りかざす妖女。

唐沢光徳:貴族院議員で瑠璃子の父。

唐沢光一:瑠璃子の兄。

壮田勝平:貿易商の富豪。

壮田勝彦:勝平と前妻との長男。

壮田美奈子:同じく連れ子で、壮田家の長女。

杉野直也:瑠璃子の初恋の相手。

青木淳:貴族院議員の息子。自動車事故に巻き込まれて亡くなる。

青木稔:淳の弟。

渥美信一郎:物語の進行役。

『真珠夫人』のあらすじ​​

 渥美信一郎は、妻の見舞いのため湯河原に向かっていた。駅を出ると富士屋自動車という帽子を被った男に声をかけられ相乗りで湯河原に向かっては?と提案され、乗車する。しかし、道中で自動車事故に巻き込まれてしまう。相乗りしていた青木淳が遺した「ノートを捨てろ」「腕時計を叩き返してくれ」そして「瑠璃子」という遺言を受け、信一郎は白金の腕時計の贈り主を探すことに。

 葬儀の参列者から情報を得た信一郎は、壮田瑠璃子の邸宅を訪ねる。腕時計と遺言のことを知った彼女は動揺するが、取り繕って信一郎を音楽会に招待する。

 場面は過去に遡り、貿易商の富豪である壮田勝平が開いた園遊会へ移る。参加者の杉野直也と恋仲にある唐沢瑠璃子が揃って趣向を批判したのを耳にし、勝平は激怒する。

 唐沢家が抱えていた債権を買い取り、さらに債権の弁済を絡めて唐沢家を困窮させるための謀略を巡らせる勝平。自害を図る父親を瑠璃子は制止し、勝平を打ち負かす成算があると言って壮田家に嫁ぐ。瑠璃子を奪われた直也は壮田邸に乗り込んで発砲事件を起こすが、父親の助けで告訴を免れる。

 壮田家に入った瑠璃子は、勝平に身体を決して許さなかった。そのことから葉山の別荘で争った際、瑠璃子が手懐けていた長男・勝彦が乱入したことで事態は収拾されるが、取っ組み合いの最中に重傷を負った勝平は死去する。

 場面は再び現在へ。音楽会の帰路、瑠璃子が『カルメン』を引き合いに出して展開した持論に感心した信一郎。誘われるまま壮田邸を訪れるが、そこは青年が集う、瑠璃子主宰のサロンの様相を呈していた。さらに庭園で青木の弟・稔と話す男を見かけた信一郎は、その腕にある白金の腕時計を見て瑠璃子への不信感を募らせる。瑠璃子は、愛の証として腕時計を贈り男たちを弄んでいたのだ。

 一方、義母となった瑠璃子に寵愛されていた荘田家の長女・美奈子は、父母の墓参りで見かけた稔に心惹かれる。しかし彼はサロンに通い、瑠璃子に好意を寄せていた。

 瑠璃子・美奈子・稔の3名で逗留した箱根旅行の折、稔は瑠璃子に求婚するが、美奈子の目の前で断られる。稔は瑠璃子を罵倒して去り、瑠璃子は自分の行いが美奈子の初恋を傷つけてしまったことを謝罪し、二人は抱き合って泣く。

 ホテルに戻った稔は、信一郎に兄のノートを見せられ、瑠璃子に近付かないよう忠告される。兄弟揃って弄ばれたことに激怒した稔はその夜、瑠璃子を刺して逃走し湖で投身自殺した。

 危篤となり直也の名を呼ぶ瑠璃子のもとに、帰国していた直也が駆けつける。瑠璃子は彼に美奈子を託し息を引き取った。瑠璃子は妖婦として振る舞いつつも、その貞操と直也への初恋を真珠のように守っていたのだった。

<第77回に続く>

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