シェイクスピア『ヴェニスの商人』あらすじ紹介。前代未聞の“人肉裁判”!? 友人の恋愛成就のために命がけで借金した結果…

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/28

 この時代、気のおけない友人同士のちょっとしたお金の貸し借りで証文を書いたり、何かを「カタ」に取られたりすることはまずないでしょう。それでは、もしも友人の恋の成就のために必要だとしたら、あなたは「命をカタにして」借金できるでしょうか? 今回は、そんな無謀な資金繰りに挑んだ若き商人と高利貸しの対決と、その仲間たちの恋愛模様を描いた「ヴェニスの商人」のあらすじをご紹介します。

ヴェニスの商人

『ヴェニスの商人』の作品解説

 本作はヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした、劇作家シェイクスピアによる戯曲です。作中3組の若いカップルが誕生する、恋愛要素をふんだんに盛り込んだ喜劇の筋書きではありますが、ユダヤ人を悪役とした勧善懲悪の設定など、ユダヤ人を差別する表現が含まれています。時代によって、ユダヤ人であるシャイロックは悪役、悲劇の主人公、悲劇的英雄として扱われ、民族差別についても考えさせられる作品です。

『ヴェニスの商人』の主な登場人物

アントーニオ:主人公。商機を狙うヴェニスの貿易商。

シャイロック:高利貸しを営むユダヤ人。キリスト教の教義から迫害される立場にある。

バサーニオ:アントーニオの親友。ポーシャに恋をしている。

ポーシャ:ベルモントの資産家の娘。父の遺産と、結婚相手に関する言いつけを守っている。

ロレンゾー:アントーニオとバサーニオの友人。ジェシカと駆け落ちする。

ジェシカ:シャイロックの娘。

グラシアーノ:アントーニオとバサーニオの友人。ネリッサと恋に落ちる。

ネリッサ:ポーシャに仕える侍女。

『ヴェニスの商人』のあらすじ​​

 海上貿易に全財産を投資していたアントーニオは、「資産家の娘ポーシャへの求婚準備のため大金が要る」という親友バサーニオの相談に乗り、高利貸しのシャイロックへ借金を打診する。客に無利子で金を貸すなど商売敵でもあったアントーニオに、シャイロックは「無利子で貸そう。ただし、期限内に返済できなければ、利子の代わりに胸の肉1ポンドを切り取る」という条件を突きつける。

 事業の成功を確信していたアントーニオはこれを受け入れ、バサーニオはシャイロックをパーティーに招待するが、その間に友人ロレンゾーとシャイロックの娘ジェシカがシャイロックの財産を掠めて駆け落ちし、パーティーは中止。シャイロックはキリスト教徒への憎悪をさらに募らせていく。

 同じ頃、ポーシャは「金・銀・鉛の箱の中から正しい箱を選んだ男と結婚しなさい」という父の遺言を守り、屋敷を訪れるやんごとなき求婚者たちを追い返していた。準備万端のバサーニオはアントーニオ、グラシアーノとともにベルモントへ向かい、見事正しい「鉛の箱」を選び取る。アントーニオとバサーニオの友人、グラシアーノもネリッサと婚約し順風満帆かに見えたが、その裏ではアントーニオの商船が難破していた。

 胸肉担保の件を知るバサーニオは、破産寸前のアントーニオのためにポーシャへ事情を話し、男たち一行は借り入れた倍の金額を持参してヴェニスへ向かう。その後を、心配したポーシャとネリッサも内緒で追っていた。

 商船が難破したと聞きつけ、復讐に燃えるシャイロックは、法外な金額でも借金帳消しに取り合わず“人肉裁判”を持ちかける。

 裁判はシャイロックの有利に進むも、法学者に変装したポーシャの機転により、土壇場で逆にシャイロックが重罪人となる。「肉1ポンドはシャイロックのものだが、血に関しては記述がなく1ミリでも血を流せばシャイロックの命はない」と告げたのだ。逆に殺人未遂の罪にも問われ死刑を宣告されたシャイロックだが、遺産を駆け落ちした娘夫婦に渡すこと、そしてキリスト教に改宗することという条件で減刑される。ポーシャは、彼女の正体に気づかないバサーニオとグラシアーノにも裁判の謝礼金の代わりに婚約指輪を渡すよう要求し、場を収めた。

 素知らぬ顔で先に屋敷へ戻ったポーシャとネリッサは、帰宅した男たちの手に指輪がないことを「信じられない!どこかの女にやったんでしょう!」と責め立て、笑いを噛み殺しながらからかう。必死に弁明する夫の姿がさすがに可哀想になってきた2人の新妻は、アントーニオの商船3隻が無事に戻ったという吉報を伝えるとともに、ここでネタばらし。一同は笑いに包まれるのだった。

<第79回に続く>

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