第4回「アオアシ」

マンガ

公開日:2023/9/27

鈴原希実

「強さ」とは何か、考えたことはありますか。

そもそも一言で「強さ」と言っても、精神的な強さや肉体的な強さなど色々な形の強さがあると思います。

今回紹介する作品は、そんな様々な「強さ」を持った登場人物たちが織りなす物語、「アオアシ」です。

「アオアシ」はユースサッカーが舞台となっている作品で、主人公・葦人は愛媛県に暮らす中学生。
「視野の広さ」というとてつもないサッカーの才能がありつつも、まだまだ粗削りだった葦人の目の前に、ユースチームの監督である福田達也が現れます。
まだ葦人自身も気付いていない才能に、いち早く気づいた福田は、東京で開催される自チームのセレクションを受けてみないか?と葦人に提案します。

そして迎えた東京でのセレクション。
紆余曲折を経て、狭き門のセレクションを見事通過し名門ユースに加わった葦人は、ここから急速に成長していく、そんな物語です。

この作品からは「執念」と「強さ」を感じずにはいられません。

それも選手のみならず、コーチやその妹からも。
1人1人の登場人物から、ビシバシ感じるのです。

そしてその「執念」と「強さ」は、登場人物1人1人の生い立ちや置かれている立場の重みから来ています。

例えば、主人公の葦人。
彼の実家はあまり裕福な家庭ではなく、スパイクも買い替える余裕がない状態でした。
中学時代、そのことを対戦相手に揶揄われるという経験もあり、葦人自身プロになって親を楽にさせてやりたいという思いが人一倍強いのです。

そして彼の「強さ」はそこからくる絶対に諦めないという根性です。

特に彼の「強さ」を感じたのは、コーチにフォワードからディフェンダーへの転向を言い渡された場面。

葦人は小学生時代からフォワード一筋で、天才フォワードになるんだという目標を掲げてここまで努力し続けてきていました。

なのでこの場面は、絶望感で全てを投げ出してもおかしくないほどショックだったと思います。

ですが、彼はその日一時放心状態で部屋を飛び出すも、数時間ほどで戻ってきて、全て一から教えてほしいと同じくDFの選手に頭を下げます。

どんなに苦しい状況に立たされてもめげずに這い上がってくるその不屈の精神は、まさに葦人が持つ「強さ」と言えるのではないでしょうか。

そして冨樫 慶司。
彼は葦人と同期で、この年度唯一のスカウト生。
情に厚いが少し粗暴なところがあるディフェンダーです。
彼はこの代唯一のスカウト生ということでかなりの実力者だったのですが、プライドの高さと、すぐに物事を決めつけてしまう点が課題の選手でした。

そんな彼は、ユースに入ってきた頃から技術面が他の選手に比べて劣っていた葦人を無意識に格下に見てしまっていました。

ですが、監督からそのことについて指摘を受けた後、葦人にその「視野の広さ」の秘訣を教えてほしいと自らプライドを捨て質問しに行きます。

私はこのシーンで彼の真の強さを見た気がしました。
元々、孤高で誰になんと言われようと自分の信念を貫き通せるところが冨樫の「強さ」であると思っていたのですが、このシーンを見てそれは少し違っていたかもしれないと感じました。

彼の強さは強くなるためなら己のプライドも捨てられる「勝利への執着の強さ」にあると思います。

絶対に勝ってやるという勝利への執念が全面に出ているところが彼の強みだなと感じました。

他にも、大友はフィールドに上がった際の精神力の強さがピカイチですし、黒田は論理的思考力が大きな武器、阿久津は乱暴さはあるが、彼の反骨心の強さがチームに大きく貢献している。などそれぞれの登場人物に違った「強さ」があります。

この作品を読んで私が感じたことは「強さ」とは決して1つではないということ。

そして自分が弱さだと思っていたことが実は「強さ」だったりするのかもしれないということです。

先ほどお話した冨樫のエピソード、冨樫自身はもしかしたら恥ずかしいところを見せてしまったと思っているかもしれません。

でも私の目にはそれが「強さ」に映りました。

実際に私自身も似たような経験があります。
私はタイトルにもある通り凄くネガティブな性格なのですが、時たま「鈴原さんは強いね。」と言っていただくことがあります。

自分ではどこがだろう?と思ったのですが、自分の弱さを認めることは実は凄く難しいんだよと、その方は仰っていました。

私はネガティブで弱い自分が好きではなかったのですが、その言葉で「自分の弱さを知っているということは、実は大きな武器なのかもしれない」という風に少し見方を変えられるようになりました。

きっと皆さんも、自分だけの「強さ」を持っていると思うのです。

もし今分からなくても、自分の中のどこかに眠っているはずです。

この作品を読んで自分自身を見つめて、自分の中にある「強さ」を一緒に見つけにいきましょう。

鈴原希実

<第5回に続く>

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