ヒトの進化を振り返る。霊長類はどんな分岐をたどったか?/AIは敵か?⑥

暮らし

公開日:2023/11/22

『AIは敵か?』(Rootport)第6回

AIに仕事を奪われる! 漠然と抱いていた思いは、「ChatGPT」のデビューによって、より現実的な危機感を募らせた人も多いのではないでしょうか。たとえば、バージョンアップしたGPT-4のアドバイスを受ければ、プログラミング経験のないユーザーでも簡単なアプリを作れるほど高い精度を誇ります。では、⽣成AIが登場し、実際に人々の生活はどうなるのか。本連載『AIは敵か?』は、マンガ原作者でありながら、画像生成AIを使って描いた初のコミック『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)を上梓したRootport(ルートポート)氏が、火や印刷技術といった文字通り人間の生活を変えた文明史をたどりながら、人とAIの展望と向き合い方を探ります。

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AIは敵か?

膝の進化で、サルはより遠くへ行けた

 1600万年前、地球はサルの惑星でした。

 温暖な気候により、アフリカやヨーロッパからユーラシア⼤陸の東端まで、巨⼤な森林に覆われていたのです。私たち⼤型霊⻑類はこの森林の中で誕⽣し、⼤いに繁栄したようです。その後、地球の寒冷化と乾燥に伴い、⼤陸の中央から森林が失われていきました。その結果、⼤型霊⻑類たちは残った森林に「取り残される」ことになりました。

 現在ではアフリカの森林地帯に⽣息するゴリラやチンパンジーの仲間と、東南アジアのスマトラ島およびボルネオ島に⽣息するオランウータンとが(ヒトを除けば)⼤型霊⻑類として⽣き残っています。彼ら(そして私たち)の祖先はインド洋を泳いで渡ったわけではなく、かつては⼀つの巨⼤森林に暮らしていた祖先が、別々の「⾶び地」に分断されたことで、それぞれの地域で独⾃の進化を遂げることになったのです。

 サルの楽園だった巨⼤森林の中で、私たちの祖先はある重要な特徴を⾝につけました。それは「膝をまっすぐに伸ばせること」です。元々は樹冠で、より遠くの枝へと移動するための適応だったと考えられています。ただ腕を伸ばすだけでなく、膝も伸ばすことができれば、より遠くの枝へと⼿が届くわけです。

 この「膝をまっすぐに伸ばす」という特徴を⾝につけたからこそ、私たちは直⽴⼆⾜歩⾏が可能になりました。

ヒトとゴリラはいつ分岐したか

 現代の⼤型霊⻑類では、ヒトのほかにオランウータンがこの特徴を残しています。YouTubeで検索すると、動物園のオランウータンが(まるでヒトのように)膝をまっすぐに伸ばして⼆⾜歩⾏している動画を⾒つけることができます。

 ⼀⽅、よりヒトに近縁のゴリラやチンパンジーでは、この特徴は失われてしまいました。彼らはナックルウォーク――前肢をじゃんけんの「グー」の形にして、四つ⾜で歩く歩⾏法――に適応した結果、膝を伸ばすという特徴を失ったのです。こちらもやはり、YouTubeを検索すると動物園で飼育されている個体の動画がたくさん⾒つかります。それらを⾒ると、膝をまっすぐに伸ばせないため、⼆⾜歩⾏をしようとしても前屈みの不⾃然な姿勢になってしまうことがよく分かります。

 私たちが共通祖先から分かれた時期については、未だに議論が続いています。少なくともゴリラの仲間は、ヒトとチンパンジーよりも⼀⾜先に分岐したようです。また、チンパンジーとヒトが分岐した時期は、遺伝学的な研究ではおよそ500万年前だと計算されていますが、正確な年代は今でも結論が出ていません(※1)。

 現時点で最古とされている⼈類の化⽯は、2001年にアフリカのチャドで発⾒されたサヘラントロプス・チャデンシスのもので、720万~600万年前のものだと推測されています(※2)。この他にも、ケニアでは「ミレニアム・マン」の名で呼ばれる610万〜572万年前の化⽯が出⼟しました(※3)。また、エチオピアでは577万〜554万年前のものだと⾒られる「カダバ」という化⽯が出⼟しました(※4)。いずれも直⽴⼆⾜歩⾏していた可能性があります。

AIは敵か?
ヒト亜科の分岐図(筆者作成)

 ポイントは、遺伝学的な研究から判明したヒトとチンパンジーとの分岐した時期よりも、これらの化⽯のほうが古いということです。

 もちろん、こうした年代測定はどれほど正確でも数⼗万年の誤差があるものです。したがって、これらの化⽯⼈類が私たちの直接の祖先だと⾒做すことが定説になっているようです。

 反⾯、もしも遺伝学的研究と化⽯の年代測定のどちらも正しいとしたら、彼らは、私たちとは直接の⾎の繋がりはないことになります。現代でこそホモ・サピエンスしか⽣き残っていませんが、もしかしたら700万〜500万年前のアフリカでは「直⽴⼆⾜歩⾏する⼤型類⼈猿」は、さほど珍しい存在ではなかったのかもしれません。

※1『そして最後にヒトが残った ネアンデルタール人と私ったちの50万年史』(クライブ・フィンレイソン/白揚社、2013年)P42

※2『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 上巻』(ダニエル・E・リーバーマン/早川書房、2015年)P56

※3『そして最後にヒトが残った』(クライブ・フィンレイソン/白揚社、2013年)P45

※4『そして最後にヒトが残った』(クライブ・フィンレイソン/白揚社、2013年)P23

<第7回に続く>

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Rootport(るーとぽーと)
マンガ原作者、作家、ブロガー。ブログ「デマこい!」を運営。主な著作に『会計が動かす世界の歴史』(KADOKAWA)、『女騎士、経理になる。』(幻冬舎コミックス)、『サイバーパンク桃太郎』(新潮社)、『ドランク・インベーダー』『ぜんぶシンカちゃんのせい』(ともに講談社)など。2023年、TIME誌「世界で最も影響力のある100人 AI業界編」に選出される。
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