アドルフ・ヒトラー『わが闘争』あらすじ紹介。世紀の極悪独裁者が記した悪魔の書

文芸・カルチャー

公開日:2023/11/27

この記事には不快感を伴う内容が含まれます。ご了承の上、お読みください。

わが闘争』は20世紀最大の独裁者、悪人と言われるアドルフ・ヒトラーが、自身の思想を書いた書物で、長らく発売禁止になっていました。

 本稿では、『わが闘争』のあらすじを紹介します。内容は偏見に満ちたものですが、経済が停滞しナショナリズム化の兆しが見える現代では、むしろ批判的に読んでおくべき一冊なのかもしれません。

わが闘争

『わが闘争』の作品解説

『わが闘争』は1925年に第1巻、1926年に第2巻が出版されました。ドイツのナチス党指導者、アドルフ・ヒトラーの著作です。ヒトラーがナチスこと国家社会主義ドイツ労働者党の活動理念について書いたもので、ナチズムの聖典的な書物です。

 1923年のミュンヘン一揆と呼ばれる武装蜂起に失敗したヒトラーが、獄中にて口述筆記により記しました。ヒトラー自身の思想を知る上での参考にはなりますが、誇張された内容には根拠が乏しく、偏見に満ちており、誤りも多いとされています。

『わが闘争』の主な登場人物

アドルフ・ヒトラー:かつては画家を志す青年であったが、後にナチ党を率い、第二次世界大戦を巻き起こすことになる。

『わが闘争』のあらすじ​​

 本作は全2巻からなり、第1巻では主にヒトラー自身の半生が自叙伝的に記されている。

 画家を志す一介の青年だったアドルフ・ヒトラーは父の猛反対に合いながらも、両親の死をきっかけに18歳の時、孤児年金を頼りに画家になるため、ウィーンの美術学校への入学を目指す。しかし、2度にわたり受験するも不合格。絵葉書を描いて糊口をしのぐという貧窮した生活を送ることになる。そんな折に「国が困窮しているのはユダヤ人のせいである」という思想に出会う。当初は「ユダヤ人に嫉妬しているだけ」と反発していたヒトラーであったが、独自に勉強することによって、より強固なユダヤ人陰謀論とアーリア人優性思想を持つに至る。

・ユダヤ人は金貸しで得た資本を投資することによって多くの工場を所有し、経済・政治・マスコミへと影響力を広げている。

・自分たちアーリア人は真面目に土地を耕し、生産に貢献しているにもかかわらず、生活は豊かにならない。

・にもかかわらず、経済を操ることで生産に寄与していないユダヤ人が富と権力を独占している。

・さらに、支配層になることでアーリア人の文化や国家を崩壊させようとしている。

 こうしてゆがんだ思想に取りつかれたヒトラーは「祖国に誇りを取り戻さん」とドイツへと移住をする。

 セルビア人ゲリラによるオーストリア皇太子暗殺を発端とした、第一次世界大戦が勃発したのはこの頃である。オーストリアの同盟国であったドイツも大戦に参戦。「祖国に貢献できる」と前線に身を投じるヒトラーであったが、ドイツ全土では反戦運動が隆盛を見せる。結果、ドイツは降伏し終戦を迎える。

「前線では勝っていたのに降伏したのは、政治を支配しているユダヤ人が裏切ったからだ」

 ヒトラーはユダヤ人陰謀論をさらに強固なものとする。

 敗戦したドイツはヴェルサイユ条約により領土の一部と植民地を全て奪われ、多額の賠償金を課せられる。そして、共和制政府が誕生。ヒトラーは軍の諜報機関に所属して、ある政党をスパイすることになる。そこでヒトラーは、スパイであるにもかかわらず党員に「自分たちはドイツ人であり、国民が国家を捨ててどこで平和に暮らせるというのか」「ドイツ人として誇りを持つべき」と説く。党員はヒトラーの主張に熱狂。そして、ナチ党への入党を強く求められる。

 ナチ党に入党したヒトラーは瞬く間に頭角を現していく。宣伝工作が最重要とし、多くの支持者を獲得。持論である「ユダヤ人陰謀説」と「アーリア人優性思想」をもって聴衆を魅了し、やがてヒトラーはナチ党の指導者にまで上り詰める。

 その頃のドイツは大戦の賠償金によるインフレに見舞われており、現状を見かねたヒトラーは政権を打倒するべくクーデターを画策。しかし、後にミュンヘン一揆と呼ばれるクーデターは鎮圧されヒトラーは逮捕される。そして、禁固刑を受け収監されたランツベルクの要塞拘置所で本書を執筆する。

 第2巻となる後半部分では、群集心理や自らの政治手法、ヒトラーの歴史観、人種観、プロパガンダのノウハウなどが記されている。また、戦争や教育などさまざまな分野を論じ、自らの政策の提言も行っており、特に顕著なのは人種主義についてで、持論である「ユダヤ人陰謀説」と「アーリア人優性思想」を展開している。

<第98回に続く>