敵を誘惑して寝首を掻っ切る美人。洋服が血で汚れるのを嫌がるような表情に笑ってしまう/つい人に話したくなる名画の雑学③

文芸・カルチャー

公開日:2023/12/16

つい人に話したくなる名画の雑学
1847年 油彩、キャンバス 1210×1897㎜ ファーブル美術館(フランス、モンペリエ)

涙が物語るは本当に怒りか――

『堕天使』

アレクサンドル・カバネル
【フランス 1823~1889年】

溢れる涙が物語る神への変わらぬ愛

 瞳から溢れる血涙のようにも見える涙。きつく固められた両手からは、彼の怒りが伝わってきます。彼はルシファー。堕天使にして悪魔の王(サタン)です。

 かつて神に最も愛された彼は、天使の長として君臨していましたが、神への反乱を企てたとして地に墜とされました。恐らく彼は神への復讐を誓ったでしょうが、気になるのはこの涙です。ただ怒りに燃える者が、こんな悲しげな涙を流せるでしょうか。彼は恐らく誰より神を愛していたのではないか、そして地に墜とされた今でもまだ愛しているのではないか、とこの涙は思わせてくれます。

数多の弟子を抱える権威的画家カバネル

 作品を描いたカバネルはアカデミック、いわゆる伝統的かつスタンダードな絵画を描いた人でした。ナポレオン3世のお気に入りで多くの弟子を抱えていたとか。革新的な印象派の対極にいるとも言える権威的な画家ですが、ルシファーの内面をここまで深くえぐった技量は流石です。

<第4回に続く>

本作品をAmazon(電子)で読む >

本作品をebookjapanで読む >

本作品をブックライブで読む >

本作品をBOOK☆WALKERで読む >

あわせて読みたい