暮らしの変化/絶望ライン工 独身獄中記⑪

暮らし

更新日:2024/1/25

絶望ライン工 独身獄中記

今最も恐れているもの、それは税金である。
2023年の所得税は過去最高額になる見込みであり、税金対策にあれこれと物を買わず貯金するしか能のない自分には大変な恐怖だ。
金を貯めるには納税しかない。それが嫌なら使い切れ。耳と目を閉じ口を噤んで孤独に暮らせ。それも嫌なら──。

恥ずかしながら私がきちんと税金を納められるようになったのはここ3年程である。
それまでは所得が低すぎて逆に給付金が振り込まれたり、保険料を滞納して差し押さえをくらったりと、随分と行政に迷惑をおかけした。
当時の通帳を見ると悲惨なやりくりに目を覆いたくなるが、今こうして過去の分まで税金を納め、僅かながらでも社会貢献できることは素直に嬉しい。
それもこんな乱文を読んでくれる聡明な読者諸君、動画を楽しみに待ってくれる誇り高き絶望団、曲を聴いてくれるリスナー社員たちのお陰です。ハンコ!

所得が増えたことで生活が大きく変わったかというと、実はそうでもねえ。
よく「アパートは撮影用で実際はタワマン住み」とか言われるが、タワマンに住むくらいなら囲炉裏と堀炬燵つきの一軒家を選びたい。
冬は囲炉裏で芋を茹で、夏は縁側でスイカを齧る・・そんな暮らしに憧れる。
郷里の古びた一軒家に犬と棲まうのが夢ではあるが、それにはまだまだ金が足らぬ。
そんなわけで自然と贅沢はせず、暮らしは3年前とさほど変わっていない。

しかしながら変わったこともある。
最も顕著なのは朝夕のめし、殊に味噌汁である。
汁の実といえば刻んだ葱が少し入る程度だったが、今では大きな青物がぷかぷかと優雅に浮いている。
白菜に豆腐、ほうれん草や小松菜、えのき、椎茸、なめこに生姜の効いた鶏つみれ。
毎日仕事帰りにスーパーに寄り、今夜の汁の実を晩酌の肴と併せあれこれと検討するのが楽しい。

晩酌の内容も変わった。
以前は漬物をケチケチ齧り、ビールは最初の1本だけ。あとはもっぱら紙パックの日本酒でコップ酒だ。
湯豆腐に使える奴は半丁と決まり、白菜しか箸に引っかからない湯豆腐とは名ばかりの鍋で飲む。
今では一丁まるまる入れるしポン酢に大根おろしをつけ、豚肉を茹でて同時にしゃぶしゃぶをやる始末である。
コップに入るのは安酒ではなく黒ラベル、〆には焼いた鮭を炊き立てのめしで食う豪奢な膳をこころゆくまで楽しむ。

目玉焼きを入れて持っていくのが精いっぱいだった弁当には、揚げたての唐揚げやベーコン入りの野菜炒め、大きく月のように円いハムステーキ、ときには明太子が入って昼休みを楽しませてくれる。
昆布一辺倒だった握り飯の具にも富の力は作用するのか、わかめやかつお節を混ぜ込んだおむすび、スパムを挟んだもの、ツナ缶を入れたものなど作るのも食べるのも幸せを感じる次第である。

こうして贅沢を覚えると後が怖いが、もしまた人生に躓き、生活苦に陥ることがあったとしても、その時はまた身の丈に合った暮らしに戻ればよい。
分不相応な買い物や旅行をしたり、スケベギャルと遊んだりせず、労働して貯金して納税する。
その繰り返しが今の心地よい暮らしの礎であり、謎の「このまま独身でもいいんじゃね」感を生んでるってわけ。

よくないなこれ。やっぱりスケベギャルと遊んだほうがいいんじゃないか。

<第12回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。
絶望ライン工ch :https://www.youtube.com/@zetsubouline