紫式部『源氏物語 十一帖 花散里』あらすじ紹介。“須磨退居”へのカウントダウン。傷心を癒すため、源氏が会いに行ったのは…

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/25

源氏物語』は平安時代に書かれた古典文学として多くの人に知られています。名前は知っているけれど内容はよくわからない、教科書で一部しか読んだことがないという人も多いのでは? 全体を読み通してみたいという方のために1章ずつあらすじを紹介します。本稿では、第11章「花散里(はなちるさと)」の解説とあらすじをお楽しみください。

源氏物語 花散里

『源氏物語 花散里』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

『花散里』は、長編の『源氏物語』の中でも特に短い章段です。大きな展開はありませんが、前章までの波乱の展開から一転、これから源氏を待ち受ける「都落ち」への転換点として、源氏にとっても読者にとってもほっと一休みをするような部分となっています。多くは描かれていない花散里ですが、源氏にとってはこの先も癒しとなるような女性です。

これまでのあらすじ

 正妻・葵の上が亡くなった。死の原因の一端を作った愛人・六条御息所や、心から求めていた藤壺は源氏のもとを離れていった。政治情勢は政敵である右大臣側に移り、公私ともに寂寥を感じていたが、一方で紫の上との夫婦生活が始まり満たされるところもあった。

 そんな折、以前から関係を持っていた朧月夜との不倫が右大臣家に発覚する。朧月夜は帝の寵愛を受けている女性であり、右大臣の娘、また弘徽殿女御の妹であったため、世間からの非難は免れないだろうと覚悟する源氏だった。

『源氏物語 花散里』の主な登場人物

光源氏:25歳。

麗景殿女御(れいけいでんのにょうご):故桐壺帝の妻の一人。

花散里:麗景殿女御の妹。

『源氏物語 花散里』のあらすじ​​

 ある五月雨の晴れ間に、源氏は過去にかりそめの関係にあった花散里という女性の存在をふと思い出し、抑えられない気持ちで会いに行った。花散里は、故桐壺院の妻の一人である麗景殿女御の妹で、姉妹は源氏の庇護を受けて慎ましい生活をしていた。

 途中、中川で昔逢ったことのある女の家の前を通った。ほととぎすが鳴き、誘い込むように思えたので歌を届けさせるが、そっけない返事が返ってきて、女に会うことはなかった。

 麗景殿女御の家は、やはり訪ねる人もなくひっそりとしていた。女御は年齢を重ねていたが気品があり、亡き桐壺院の思い出話をしているうちに夜が更けていった。

 その後、花散里のもとをそっと訪ねた。久しぶりの源氏の姿はやはり素晴らしく、花散里もそれまで訪問がなかった辛さを忘れ、お互いの気持ちを確かめ合って過ごした。

<第12回に続く>

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