紫式部『源氏物語 十帖 賢木』あらすじ紹介。源氏、人生最大のピンチ!? 帝の寵妃との不倫現場に踏み込まれる

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/24

 平安時代の王朝文学として有名な『源氏物語』。古典の教科書で勉強した記憶はあるけれど、詳しい内容はわからない、読むのが難しそうと思われがちですが、魅力的な主人公の恋物語は一読の価値があります。今回は、第10章『賢木(さかき)』の解説とあらすじを簡潔に紹介します。

源氏物語 賢木

『源氏物語 賢木』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

 この章で、源氏はある女性との不倫が露呈してしまいます。相手は朱雀帝の寵愛する女性・朧月夜(おぼろづきよ)。彼女は、源氏や左大臣の政敵である右大臣の娘で、藤壺をライバル視する弘徽殿女御(こきでんのにょうご)の妹です。当然、右大臣や弘徽殿女御は怒り、源氏追放のチャンスとします。事の重大さに朧月夜は呆然としますが、源氏は「いよいよバレてしまったなぁ」と思うもののあまり動じません。むしろ、不倫の現場を見て動揺する右大臣をどこか傍観し、冷静で温和な左大臣とは比べ物にならないと苦笑する様子です。修羅場を迎えても余裕を見せる姿に、稀代の色男ぶりがうかがえます。

これまでのあらすじ

 元服した頃から10年連れ添った妻・葵の上が亡くなった。出産で衰弱しているところに、愛人の六条御息所の生霊が現れ、妻を苦しめる様子を見て、御息所への愛は完全に冷めていった。今まであまり夫婦仲は良くなかったが、死の間際で葵の上への情愛を感じていたため、源氏は大きな喪失感を抱いていた。

 喪に服した後、久々に紫の上のもとを訪れた源氏は、その美しく成長した姿を見て満足し、遂に二人は夫婦となった。父のように慕っていた源氏との新たな関係に、紫の上は動揺を隠せず、塞ぎ込んでしまった。

『源氏物語 賢木』の主な登場人物

光源氏:23~25歳。

六条御息所(ろくじょうのみやすどころ):30~32歳。源氏の愛人。

朱雀帝(すざくてい):26~28歳。源氏の異母兄。

藤壺:28~30歳。源氏との不義の子を、桐壺帝の子として出産する。

朧月夜(おぼろづきよ):源氏と恋仲になるが、後宮に入内し朱雀帝の寵愛を受ける。

『源氏物語 賢木』のあらすじ​​

 源氏の愛人の六条御息所は、斎宮になる娘に付き添うため、都を離れ伊勢に下る決心をした。すでに心が離れていた源氏だが、もう恋人には戻れないことを知り未練を感じていた。

 時を同じくして、父である先帝・桐壺院が崩御する。そして、これを機に藤壺は出家を決意した。院亡き後、藤壺親子にとって頼れるのは源氏だけであったが、源氏からの求愛の激しさに苦しんでいた。世間体を考えると応えることはできずどこまでも冷たくあしらうものの、もし源氏に見放されたらと思う藤壺にとって、出家が最善の策であった。政権は源氏の政敵である右大臣家に移り、左大臣は辞職、源氏も自室にこもって過ごすようになっていた。

 しかし、右大臣の娘である朧月夜との関係は続いていた。彼女は、最高位の女官である内侍(ないしのかみ)になり帝の寵愛を受けながら、源氏を忘れることができず、危険を承知で逢瀬を続けていた。ある夏の日、源氏は実家に里下がりをしていた朧月夜と夜を過ごし、雷雨のため自宅へ戻れずそのまま朝を迎えてしまった。まだしどけない姿で逢瀬の余韻に浸る2人の部屋に、こともあろうに父である右大臣が突然入ってきた。呆然とする朧月夜を慰め、いよいよ世間から非難されるような事態が起きてしまったと思いながら、右大臣の所作を無神経だと内心思う源氏であった。驚きと怒りを隠せない右大臣は、すぐさま弘徽殿女御に事の次第を報告する。もともと源氏を不愉快に思う弘徽殿女御は、これはいい機会だと源氏追放の策を考えているようだった。

<第11回に続く>

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