SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第34回「貫け、括弧笑」

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公開日:2024/4/27

 ガーーーーンだった。常用していたものの、私はそもそも「(笑)」というやつが好きではなかったからだ。「(笑)」そのものというよりも、これの利便性というか、付けときゃどうにかなるっしょ感にものすごく抵抗があった。しかし、たかが日常の些細なやり取りの中で「(笑)」を補うために趣向を凝らした文章を時間をかけて打ち込んだりするのもかなり不毛だし、受け取る側の立場になってみれば妙に力んだ文章はなかなかに重たい。それに「、」、「。」のみで展開される文章より、かわいい絵文字や「!」なんかを多用した文章の方が今っぽいし、自然であると思うからこそ「(笑)」を妥協して使っていたのだ。若い奴らが「w」を好んで使うのも知っていたし、例えば笑うという漢字を使うにしても括弧なんてつけないことも知っていた。ただまアそんなことは大したことじゃないと思っていた。無論こういった表現に愛着なんてなかったから、別にいっかアってな具合だったのだ。

 それなのにどうだ。いざ、指摘されると衝突事故のような衝撃を覚えた後、じわじわと恥ずかしい気持ちになってきてしまった。意志を持っていたならば、微塵も気にならなかっただろう。ただ私の場合、指摘箇所の根本が妥協だ。意志を伴わなかったからぐうの音も出ず、妥協していたことだからこそ羞恥に胸を締め付けられたのだ。完全にやられた、人はこんな風に時代に取り残されていくのだ。選んでやってるなら時代の波なんて全然関係ない。ただ、古いやダサいは、このような無意識下での選択を少しずつ間違えていった先で待っているものなのだと気が付いてしまった。あア本当に、もう、やってもうたという気持ち。しかし、幼少の頃から拗らせた性格である私だから、この時、強い恥じらいを抱くと同時に、必然的に「(笑)」を貫く決意もガチガチに固めていた。

 わかってるさ、ただの見栄だ。貫いたとてどうにもならないことは知ってる。しかし何事においても言動に理念がないというのでは体裁が保てない。そんなこと思っていることが益々格好悪さに拍車をかけていることだって知っているけど、こんな風になると引き返すことが出来ない性分なのだ。ちなみにこれが例のプライドってやつで、二種類あるうちの、こっちは格好が悪い方のプライド。

 あはは、と頭を掻いて笑ってみせて、その日から改めてしまうことは簡単だが、代用として「w」を使ってみたところで、一字打ち込むたび、一抹の羞恥と、大さじ一杯の敗北感が伴うことは目に見えている。それならば、わかってるよ、と心のうちで嘯(うそぶ)きながら「(笑)」を使い続けた方が余程マシだ。

 そんなこんなで、今日に至るまで私は、時代錯誤とわかりながらも大いなる勇気を持って「(笑)」を使い続けている。

 

 この調子で幼少期から生きてきたのだ。譲れぬ箇所に限ってだが、重ねる年齢と比例して強固になるこのような性分を持って、やがて爺さんになるのだと考えたら末恐ろしい。そして譲れぬ箇所と書き終えた後で、「(笑)」が果たして譲れぬ箇所なのかと問われれば、自信を持って頷くことが出来ないことに気が付いてしまう自分である。美徳という便利な言葉に甘えるような爺さんになりませんように。

 ということで。今月は、格好はつかないが、括弧がつく笑いの話でした。

 は?

SUPER BEAVER渋谷龍太

<第35回に続く>

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催する。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中


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