【第16回】新端末はなくても見所たくさん――東京国際ブックフェア2014にいってみた(前編)

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2014/7/10

 7月2日~5日にかけて、東京ビッグサイトで「東京国際ブックフェア」が開催されました。例年「電子出版EXPO」なども併催される規模の大きなイベントです。この連載でも2010年から毎年現地の様子をレポートする形でお伝えしてきました。

 さて、今回は――実は少しこれまでと様子が異なっています。これまで、「(フェアには出展していない)アマゾンのキンドルの動向」といったある種暗黙の共通テーマや、各社の新型電子書籍端末の発表などで、大手メディアからの取材も多かったのですが、今回はそういったテーマやトピックスがなりを潜め、良く言えば実直な、悪く言ってしまえば一見地味な展示が多かったのもまた事実なのです。

 では、記事で何も紹介できないのか、といえばそんなことはありません。まだまだシェアの小さい電子書籍の市場は、これから大きくなります。そのために、端末を買ってもらうだけでなく、インターネットやリアル書店との連携を図って、利用を促していこうという動きが活発になっているのです。その中には、わたしたちの本との出会い方にも大きな変化を与えるものも。早速紹介していきましょう。

Twitterで本の立ち読みができる! tw-epub

 ブックフェアの開幕と同時に大きな注目を集めたのが、Twitter社とKADOKAWAグループの角川アスキー総研による世界初の共同発表でした。これは、Twitterのタイムライン上で、本やマンガの立ち読みができる、というもの。

tw-epub


 アマゾンなどのネット書店でよく見かける試し読みと同じような感覚ですが、ただ大きく異なるのは、Twitterのタイムライン上で直接読めるため、わざわざリンクをクリックしてページを切り替える必要がないという点、そして、それを読んで面白いと思った人は、それをRT(リツィート)して簡単に共有することが可能だという点です。

 先日、ドワンゴとの経営統合を発表したばかりの角川歴彦会長も会見に登場。角川アスキー総研による調査結果から「年に1回も本屋に行かない人が約50%もいる。一方で電子書籍を買ったことがない人が全体の約9割を占めている」という事例を紹介しました。これは逆に言えば、電子書籍はまだまだ拡がる余地があり、いかに本の存在を従来の書店だけではない場所=ネットで知ってもらうかが課題だということを表しています。(角川会長のスライドには、この連載でも繰り返し触れている「ソーシャルリーディング」の文字も)

 KADOKAWAの電子マンガサービスでComicWalkerを統括する井上伸一郎専務と、漫画家で『東京ESP』の作者 瀬川はじめさんは、TwitterにEPUBを表示させるデモを実演。「まだTwitterはやっていない」と話す瀬川さんも興味深く見つめていました。

 今回、世界ではじめてTwitterのタイムラインに電子書籍(EPUBファイル)を直接表示させることになったTwitter Japanの牧野友衛執行役員は、「Twitterユーザーは10代、20代ユーザーが全体の過半数を占めており、コミック好きの彼らがすき間時間にTwitterを楽しむ際、立ち読みができるようになるのは大きい」と期待を覗かせました。

 今回のTwitterとの取り組みは、そんな本と読者との出会いの機会を増やすことができるのでしょうか?現在のところ、立ち読み後の書店リンクはBOOK WALKERのみとなっていますが、ここは広くリンク先を募っていきたいと、tw-epub.comを運営する角川アスキー総研の福田正 代表取締役専務は質問に答えていました。

 いまゲームの世界では、PS4によるゲーム実況動画が大変な人気となっています。ソーシャルメディアでのコンテンツ体験の共有は、電子書籍の世界でも新しいマーケティングの導線としても注目を集めることになりそうです。

●選択肢の広がったセルフパブリッシング

 今回のブックフェアでは、電子書籍の自費出版(セルフパブリッシング)に関する動きも注目を集めました。

 楽天Koboは、海外で先行して提供されているWriting Life(ライティングライフ)を年内中に国内でも開始すると発表。ブースには説明用のパネルが張り出され、来場者が足を止めて見ていました。

 また、長年日本の電子出版業界を牽引してきた(株)ボイジャー社は、今回、ブックフェア前日の7月1日に個人電子出版ツール「Romancer(ロマンサー)」を発表し、関連したセミナーが連日行われたため、ブースはとても盛況でした。

 Romancerを利用すれば、Wordなどで作成した文書を、ブラウザで閲覧できるEPUBファイルに簡単に変換できます。そのため、「本を出したい」と思う人がこのツールを使うなら、EPUB作成のために新しい知識をわざわざ学ぶことなく、本の内容に注力できるというメリットがあります。

 変換されたファイルは自分のブログに表示することもできますし、EPUBに対応しているどの電子書店でも販売可能です。つまり、頒布・販売方法が無限に広がるわけです。

 セルフパブリッシングといえば、これまで、Amazonの「Kindle」が「KDP(Kindle Direct Publishing)を提供してきました。しかし、それで作成した電子書籍は、Kindleストアでしか販売できない、という制約がありました。

 しかし、各社がツールを提供することで、出版したい人にとっては選択肢が広がり、これまで躊躇していた人でも気軽に溜め込んでいたコンテンツをセルフパブリッシングできるようになります。

 「自分で本を出すことはない」という人にとっても選択肢が増えたことはメリットになるでしょう。なぜなら、これまで出版をためらっていた人たちがコンテンツを提供するようになるので、今まで出会えなかったような本・作品という知識に出会う可能性が出てきたからです。それは、広く大衆受けするものばかりでなく、非常にニッチなものかもしれません。でも、それこそが、電子出版ならではのセルフパブリッシングの魅力と言えそうです。

 いかがでしたか? 新型端末といった話題は少ないものの、電子書籍を巡ってはいろいろな取り組みが続いています。それは、私たちの出会う本の中身や、本との出会い方を一新させるものになるかも知れません。レポート後編では、リアル書店と電子書籍との連携、そしてそれ以外の変わり種アイテムなどをご紹介します。

文=まつもとあつし 協力=渡辺まりか

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