官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第71回】マキ『キープアウト~危険な男の甘い拘束~』

公開日:2015/1/13

 そして翌日、彼女から別れを告げられた。何もなかったような顔はできないということか。

 可哀想というのならばおれもだな、と思った。

 あの日から人生狂ったままだ。いまとなっては彼女に未練もないが、屈辱は色濃くこのこころに翳を落とした。忘れたくても忘れられない。普通に女に目をやれば必ず彼女の泣き顔を思い出したし、では男かと思えば長谷川がちらついた。誰かと恋愛をするなんてもう不可能だ。

 長谷川はその後すぐに大学をやめた。やつなりには罪悪感があったのか? いずれ知ったことではない。自分は普通に卒業し、平凡に就職し、給料分だけは働 くがそれ以上はしないやる気のないサラリーマンになった。そして会社帰りにはふらふらと縛ってくれるような女を探して歩く。屈辱も苦悩も何もかも、忘れさ せてくれる女を。

 全部全部投げ出したい、そうして藻掻いて辿り着いた結論があの日そうされたように、縛られたい、だとすれば、これは大した矛盾である。

 記憶に縛られているから縛られたい。滑稽な話だ、分かっているが、そうして放棄したいんだ。

 女に拘束されることで、悪夢をひととき歪んだ快楽に置き換えたいんだ、何も考えたくないんだ。それ以外ではない。

 今夜は放棄できるだろうか。

 大学時代、犯された自分の前で泣いた恋人に似た女が、一見清楚な唇でアダルトグッズショップに行きましょうと言うので従った。

 店は女がスマートフォンで適当に探した。あまり人通りも多くない路地の奥、外装だけ見ればいやに綺麗で小洒落ていてアダルトグッズショップには見えないような店まで連れて来られ、女は、自分は外で待っているから、と言って少し笑った。

「アナル用のディルドーと、きつく縛れるロープを買ってきてくれるかしら」

 なかなかだ。アナル用のディルドー? 当然おれに使うんだろうな、そんなものを手にしたことはかつてない。

 買いに行かせるところからプレイははじまっているわけだ、今夜は期待してもいいか。

 ガラスのドアを横に開けて店に入ると、いらっしゃいませ、という無愛想な声をかけられた。レジカウンターの向こうで青年が膝に置いた雑誌を眺めていた。ちらりとしか顔を上げないが、この男は客商売をする気がないのか。

 意外と広い店内に目をやると、アダルトグッズショップというよりはジュエリーショップみたいなきらきらしい印象で、その奥に男がひとり立っていた。

 背が高い、かなり高い。壁一面のショーケースを見つめて何やら考えているその横顔に目をやり、つい、ぞくりとした。

 

 

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