太宰治『ヴィヨンの妻』あらすじ紹介。繊細で破滅的な夫と、強い妻

文芸・カルチャー

更新日:2023/3/31

『ヴィヨンの妻 (角川文庫)』(太宰治/KADOKAWA)

 主人公の「妻」は、もうすぐ4歳になる息子と暮らしていた。貧困のせいか、息子の発育は悪い。詩人で大酒飲みの夫は放蕩三昧で、めったに帰って来ない。しかし今夜に限り、夫は慌ただしく帰って来たかと思うと、息子の体調を心配したりと様子がおかしい。

 しばらくすると、酒屋の店主と奥さんが家に押し掛けてきた。夫は逃げ出し、「妻」は2人が夫を追ってきた事情を聞く。

 闇市で仕入れた酒を売るその店に、夫は戦争中から足しげく通い、かなりの酒代を踏み倒してきた。それだけでも我慢してきたのに、今夜夫はついに酒屋の金を盗んだのだという。さらに店主から、夫がかなり多くの女性と関係を持ち、金も巻き上げていたのだと聞く。

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 夫はかなりのダメ男ではあるが、何ともいえぬ魅力で周りの人を巻き込む。「妻」はとにかく警察沙汰にならないようにと、「金の当てができた」と嘘をつき、その店を手伝うことになる。

 そうすると、夫が閉店まで店に残り、一緒に家まで帰るような機会も増える。理不尽な立場ではありながらも、「妻」はこの新しい生活を幸福に感じていた。

 しかしそこで働いているうちに、「妻」は悲しい現実に気づく。闇で酒を仕入れる店主や奥さんも、店の客も、皆立派な犯罪者であり、狂人扱いされている夫よりも悪いことを、平気な顔でしながら生きているのだ、と。

 ある土砂降りの夜、「妻」は夫のファンであるという男を家に泊め、明け方あっけなく犯されてしまう。その日「妻」が出勤すると、夫は店に泊まっていた。

 夫はこの店で盗みを働いた晩のことを、「妻と子と正月を過ごすためだった」と言い訳する。そんな彼に対して「妻」は、「私たちは、生きていさえすればいいのよ」と言った。

文=K(稲)