「暴走トロッコと6人の作業員」『究極の思考実験 選択を迫られたとき、思考は深まる。』①

暮らし

2019/10/30

  

 たくさんの石を積んだ無人トロッコが、猛スピードで迫ってきた! このままでは、トロッコの進行方向の線路上にいる5人の作業員が危ない。あなたの近くには、線路の進路を切り替えるレバーがある。このレバーを切り替えれば、左の線路上にいる5人の命は助かるが、切り替えた先、右の線路上にも1人の作業員が……! さぁ、どうする!?

  

  

  

  

プロローグ

 1人の命か、5人の命か。

 この話は、イギリスの哲学者であるフィリッパ・フットが提唱した非常に有名な思考実験をもとに作られたものです。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による公開授業『白熱教室』でもこの思考実験が取り上げられ、広く認知されることになりました。

 このような、自分で考え、自分の答えを導き出すための問題を思考実験といいます。思考実験は、正解不正解がないものが多く、このトロッコ問題もその1つです。

 こういった正解不正解のない問題を考える思考実験の目的は、自分の考えを確立したり、自分を知ったり、思考をまとめる力を育てることなどにあります。さらには、新たな発想を得るための手がかりとなる、自分ならではの思考の法則を獲得することにも繋がります。

  

 先ほどの「暴走トロッコと6人の作業員」での2つの選択肢も、一方が正解で他方が不正解というわけではありません。だからといって、なんとなく選択していては意味がないのです。

 重要なのは、ただ選択するだけでなく、自分の意見として人に伝えられるようになるまで考え抜くことです。

 この問題では、2つの天秤が論点となります。

 1つは「1人の命」と「5人の命」、もう1つは「行動すること」と「傍観者でいること」です。

「1人の命」と「5人の命」を天秤にかけたとき、より多くの5人の命のほうが重いと考える人が多いでしょう。

  

 ところが、このとき、3つ目の天秤が私たちの思考を惑わせることになります。それは、もともとトロッコが向かっていた先にいた5人、つまり「死ぬ運命にあった5人」と、もう一方の線路上にいた「死ぬ運命になかった1人」という天秤です。

 5人の命のほうが重くても、もともとトロッコは、その5人に向かって走っていたのです。この時点で「死ぬ運命になかった1人のほうを重く捉えるべき」と考えた場合、そこで結論が出ます。「レバーをそのままにし、5人の作業員が犠牲になる」という選択です。

 それでも「5人の命」のほうを重く考えたとき、2つ目の天秤が問題になります。大抵の人は、自分が他人の運命に関わることに強い抵抗を感じるでしょう。できることなら傍観者でいたいものです。

  

 その抵抗を加味すると、「5人の命」を救うべきだと考えていたとしても、レバーを動かさないという選択を取りやすくなります。

 本書では、それぞれの思考実験に対して、どちらの究極の選択をするか、アンケート調査を行いました。自分の選択は多数派だったのか、それとも少数派だったのか。自分と異なる選択をした人は、なぜそちらを選んだのか。

「暴走トロッコと6人の作業員」でのアンケートの結果は、次のようになりました。

  

 ちなみに『白熱教室』で多数派と紹介されていたのは「レバーを切り替える」という選択でしたが、ここでは僅差で「レバーをそのままにする」が上回る結果となりました。
多くの人が、「自分の判断で犠牲者を出したくない」と、自身が関わることに拒否感を示したことから、日本人は特に他人の運命に関わることを嫌う傾向にあるといえるでしょう。

 本書では、全部で27の究極の選択を迫られる思考実験を用意しました。自分ならこんなとき、どちらを選択するか。その理由はなぜか。

 決断を迫られたとき、私たちの思考は深まります。自らの頭で考え、決断し、意見をまとめる力をつけることで、あなたの思考の幅をより広く、より深いものにしていきましょう。

<第2回に続く>