「新型コロナ」が変える、本・書店・図書館の姿とは?

社会

2020/4/3

ジャーナリスト・まつもとあつし氏が、出版業界に転がるさまざまな問題、注目のニュースを深堀りする連載企画!

高まる「物語」の需要 無料からの転換へ

 新型コロナ感染が拡大し続けている。首都のロックダウンという未曾有の事態も想定されるなか、社会的距離を保ちつつ(ソーシャル・ディスタンシング)いかに、私たちの生活を維持していくか、誰もが悩み、苦しい状態におかれている。

 現実逃避、癒やし、あるいは現状打破する解決策を求めて、人々は物語を求めている。自宅に留まることを要請される今、おいそれとは書店や図書館に足を運べず、(まだデータは上がっていないが)必然的に電子書籍の需要が高まっているはずだ。

 そんな中、前回紹介したように出版各社は電子書籍や雑誌を無料とする取り組みを相次いでスタートさせている。一斉休校という状況で、暇をもてあます人たちを支援しよう動きは拡がりを見せた。ただ「4月中~連休明けまで」という期限を設けているところがほとんどで、感染拡大が長期化する中、一時的な「支援策」ではなく事業としてこれにどう向き合うかという課題が明らかになり、より本格的な対応が求められている(参考記事)。それはこれまでの出版流通や私たちの本との出会い方をも大きく変えることになるだろう。

電子化主体の流れは不可避に

 もともと新型コロナ問題以前から、コミックスが主導する形で電子出版はシェアを伸ばしてきた。出版市場と書店数の減少が続く中、大手出版社は若者にも届けやすい電子書籍でマンガを読んでもらい、アニメ化やグッズ展開などのライセンスビジネスで業績を伸ばすというのがいわば「勝利の方程式」となっており、漫画誌に変わる電子プラットフォームの整備とデジタルマーケティングに詳しい人材の確保に力を入れてきた。

(出版月報2020年2月号より引用)

 新型コロナ問題は、リアル書店にとっては致命的だ。いわゆる小~中規模の「街の本屋さん」の廃業が続き、特色を出せないチェーン店も閉店や業態転換を迫られていた状況で、来店者数の減少はダメ押しとなってしまう。蔦屋書店のようにショールーム型への転換や、紀伊國屋、ブックファーストのように店内イベントを充実させることで来店を促してきた取り組みも機能しないことになるからだ。新型コロナ問題の終息には短くとも1年程度は掛かると見られており、終息後も集客型の事業は見直しを余儀なくされる。

 書店はイベントや陳列によって「本との出会い」を提供してくれる場だ。美術館の展示がキュレーション(情報収集と選別・整理)、学芸員がキュレーターであるように、書店では仕入れと陳列を行うキュレーターとしての書店員によって、場の魅力が生まれており、そのことがフロア面積と多くの書店員を抱える大型書店の強みでもあったわけだが、この構造も変化を迫られることになる。

 すでにマンガがSNS上での認知獲得(ここでも影響力の大きいユーザーがキュレーターとなる)から、電子書籍への販売のみならず、映像・グッズなどの二次展開につなげるという構造への転換を果たしつつあり、この流れはマンガ以外にも拡張されていくことになるだろう。

求められる図書館の変化

 新型コロナ問題が突きつけるより大きな課題は経済のシュリンク(縮小)だ。すでにそのインパクトはリーマンショックを超えたという声も聞かれる。それは「本を買う」という消費行動そのものの制約となることは避けられない。

 一方で非常時には物語への需要は高まる。本という「知へのアクセス」が確保されていることは、私たちが非常時にも希望を持ち続けたり、SNSに流れるデマに惑わされたりすることなく、蓄積された質の高い情報を頼ることができることにもつながる。つまり、無料で本が読める図書館の役割が本来一層重要になる局面なのだ。だが、図書館も全国で休館やサービスの縮小が相次いでおり、こちらも長期化することが懸念されている。

 これまで日本では図書館で電子書籍の導入を巡る取り組みは必ずしも積極的に行われてこなかった。米国の図書館の電子書籍の導入が95%なのに対し、日本ではわずか4%程度と出遅れているのは明らかだ(参考)。しかし、このような状況であるからこそ、図書館の電子化が急がれるべきではないかと筆者は考えている。

 よく聞かれるのが電子図書館で際限なく本が読まれてしまうと、出版産業が成り立たなくなるのではという指摘だ。しかし、電子化に積極的に取り組む千代田区立図書館では、「図書館の所在自治体に在住もしくはそこに勤務する者」に利用者を限定し、1回あたりの冊数に5冊という制限を設け、しかも紙の本と同じく他の人が借りていれば「貸出中」となるなどの条件がすで存在している。読まれ放題になるという心配はあたらないのだ。

 いま問われているのは、本という「知へのアクセス」をいかに確保するかということだ。そのことは、すでにマンガがそうであるように、まずは作品を知ってもらい単行本を買ってもらいつつも、収益はライセンスビジネスで上げていくという出版の新しいビジネスモデルとも実は整合するものなのだ。

<プロフィール>
まつもとあつし/研究者(敬和学園大学人文学部准教授/法政大学社会学部/専修大学ネットワーク情報学部講師)フリージャーナリスト・コンテンツプロデューサー。電子書籍やアニメなどデジタルコンテンツの動向に詳しい。atsushi-matsumoto.jp