アニメーターはクリエイターというより職人!? コミュニケーション能力も重要…/『アニメーターの仕事がわかる本』③

アニメ

公開日:2020/4/25

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

アニメーターは「クリエイター」? それとも「職人」?

にしー先生:具体的な役割の説明に入る前に、ちょっと一休み。「アニメーター」という仕事の性格について、ざっくりと話をしておこうか。

もちい:気になってたんですけど、そもそもアニメーターになるのって、どういう人が多いんですか?

にしー先生:うーん、やっぱり絵を描くのが好きな人じゃないかなぁ。「好きな作品に関わって、毎日絵を描いていられればそれで幸せ」っていう感じの。

もちい:絵を描く職業って、ほかにもイラストレーターとか漫画家とか、色々ありますよね。その中でアニメの仕事を選ぶっていうのは、やっぱりアニメが一番好きだから?

にしー先生:それもあるんだけど、働き方の違いも大きいんじゃないかな。アニメーターって、漫画家とかイラストレーターみたいな、いわゆるクリエイター的な仕事とはちょっと違うから。

もちい:「クリエイターとは違う」? えっ、アニメーターはクリエイターじゃないんですか?

にしー先生:アニメーターはクリエイターって言うより……職人?

もちい:そ、それはどういう意味で?

にしー先生:たとえば、漫画家の人とかは紙の上に「自分の頭が生み出した世界」をアウトプットするわけだよね。舞台も物語もキャラクターも、全部一から創り上げている。
それに対して、アニメーターがアウトプットするのはつねに「他人が生み出した世界」。どういうキャラクターをどういう絵で描くのかっていう設計があらかじめ決まっているから、それを正確に再現する技術が求められるんだ。

もちい:創造性よりも技術が求められる職業ってことですね! ああ、たしかにそれは職人っぽいかも。

にしー先生:もちろん、なかにはトップクリエイターと呼ばれる人たちもいるけれど、大多数は真面目でおとなしい人の方が多い印象かなー。
「俺の作品を世に送り出してやるぜ!」みたいな人は大体途中で我慢できなくなって、それこそ漫画家とかになっちゃう。まあ、人によってモチベーションは様々だし、一概には言えないんだけどね。アニメーターでもすごく我が強い人もいるし。

もちい:な、なるほど。

にしー先生:それに、アニメーション制作はどうしても集団での作業になるでしょ? だから純粋に手を動かす技術に加えて、協調性やコミュニケーション能力も重要になってくるの。

もちい:そうなんだ! 1人で黙々と机に向かってる姿を勝手にイメージしてました。

にしー先生:あはは、そうだよね~。でもアニメーターって、絵を描く職種の中では対人スキルが必要な方だと思うよ。
現場での意思の疎通はもちろん、大多数の人が会社員じゃなくてフリーランスだから、個人で営業や交渉をしなきゃいけない場面もあるしね。

もちい:「孤高のアーティスト」っぽい感じでは全然ないわけですね。けっこう意外です。

にしー先生:そういう性質に加えて「なり方」の違いも大きかったりする。たとえば漫画家の世界だと、プロデビューまでの道のりってものすごく厳しいよね。
漫画家を志す人は星の数ほどいるし、絵が上手くて面白い話が作れる人だってたくさんいるのに、その中で実際にデビューすることができるのは、ほんの一握り。画家とかイラストレーターも同じで、「その職業」を名乗れるようになるまでのハードルがすごく高い。

もちい:才能や実力があっても、チャンスに恵まれないと……っていう世界ですよね。

にしー先生:要するに、椅子取りゲームの椅子が少ないせいで倍率がめちゃめちゃ高いってこと。
それに対してアニメーターは、ある程度の画力さえあればとりあえず誰でもなれるし、仕事がもらえる。たぶん世の中にある絵の仕事では一番ハードルが低いんじゃないかなぁ。

もちい:それは、仕事がたくさんあるから?

にしー先生:そう! とくに今は業界内も人手不足だし、引く手あまたですよ~。「誰でもなれる」のが100%良いことかって言われるとそうでもないし、むしろ現状では問題になっていることもあるんだけど……(ごにょごにょ)。
ただ仕事としての性質は、絵を描く職業の中でもかなり特殊だと思う。その違いは知っておいて損はないと思うよ。

アニメーターには大きく分けて4つのポジションがある

にしー先生:さて、一呼吸おいたところで、今度はより具体的な仕事内容について説明していこうか。

もちい:はい!

にしー先生:「アニメーター」と一口に言っても、実はポジションごとに色んな役割があるんだ。大きく分けると「動画」「原画」「作画監督」「キャラクターデザイン」の4つかな。アニメーターとして働くうえでのキャリアも、この順番に昇っていくことが多いと思う。とりあえず、アニメーターの大多数を占める「動画」と「原画」から解説していくね。

もちい:よろしくお願いします!

にしー先生:まずは「動画」。作画の工程の中では一番後ろにあるポジションで、新人アニメーターが最初に任される仕事でもあるよ。ここでやることは主に2つあって、1つがさっき説明した「動きの補完」。そしてもう1つが「原画の清書」!

もちい:ほほ~。間の動きを足すだけじゃないんですね。

にしー先生:その仕事に入る前に、基本のキとして叩き込まれる技術が「原画トレス」、略して「原トレ」なの。

もちい:トレス……つまり「写す」?

にしー先生:ご明察。原画の上に動画用紙を重ねて、下に透ける線を写し取る作業のことだね。原画1枚だけじゃなくて「作画監督」が入れた修正の紙もあるから、それらを重ねて合体した絵にする。単純に思えるかもしれないけど、これが実はすっごく技術がいるんです!

もちい:線をなぞる作業が、ですか?

にしー先生:いやいやいや、「たかがトレス」と侮ることなかれ! ただ鉛筆で線をなぞればいいってものじゃないんだ。
原画はまだ線がラフなところがあるから、それを滑らかで均一な線に整える必要がある。しかもトレスするのは人の絵でしょ? これってめっちゃ難しいの。正確に写しているはずなのに「なんか微妙に違う人に見える」「原画と比べて生気がない」みたいな現象が起きたりしちゃう。

もちい:ああっ、イラストとかを描くときの「下描きは良かったのにペン入れすると微妙」現象ですね!? たしかにあれは顔が虚ろな感じになっていくし、線もガタつくし。

にしー先生:オタクか絵描きにしかわからない例だけど、そういうことだね。鉛筆線1本分の誤差も許されないし、原画の勢いを殺さず忠実に再現しないといけない。
私もアニメーターになりたてのころは「線が汚い」と言われてひたすら原トレの練習をさせられていましたよ~。

もちい:修行感がすごい。写経……?

<第4回に続く>