がんばりが足りない?「地獄の冬合宿」を終えたとき、選手たちが得た大切なこと/「一生懸命」の教え方

スポーツ・科学

公開日:2021/8/25

我慢強さがない、打たれ弱い、すぐにあきらめる…。そんな「今どきの子ども」との向き合い方に、悩んでいませんか?

甲子園の常連校・日大三高を率いる名将・小倉全由(まさよし)監督が実践するのは、選手に「熱く」「一生懸命」を説く指導。その根底にあるのは、「人を育てる」ことでした。
個を活かし、メンバーの心をひとつにまとめあげ、強力な集団に変えていく方法とは――?すべての指導者に知ってほしい、本当のリーダーのあり方を教えます。

※本作品は小倉全由著の書籍『「一生懸命」の教え方 日大三高・小倉流「人を伸ばす」シンプルなルール』から一部抜粋・編集しました

advertisement

『「一生懸命」の教え方』を最初から読む


「一生懸命」の教え方
『「一生懸命」の教え方 日大三高・小倉流「人を伸ばす」シンプルなルール』(小倉全由/日本実業出版社)

「がんばることの意味」をきちんと教える

「がんばる」とはどういうことか、みなさんは説明できるでしょうか?

 ある人は、「どんな苦労もいとわず努力し続けること」と言うかもしれませんし、またある人は、「根性を見せること」「あきらめない心を持つこと」だと言うかもしれません。

 今の大人たちの多くは、「私たちの時代と比べて、若い人たちはがんばりが足りない」と口にしているようですが、果たしてそうでしょうか? 今どきの高校生を指導している私は、「そんなことはありませんよ」と断言できます。

 

冬の「地獄の合宿」で得られるもの

 たしかに今の子どもたちは、私たちの時代と比べて親御さんから大切に育てられてきています。その分、精神的にきつい思いをするような体験を積んできていないのも、また事実です。しかし、それは今の若い人たちは、「がんばることはどういうことなのか」が理解できていないだけの話に過ぎないのです。

 そこで彼らに、「がんばるというのは、こういうことなんだよ」ときちんと教えてあげることによって、どんなに困難な状況が訪れようとも、それを乗り越えようと努力する姿勢を、私はこれまで幾度となく見てきました。

 それを象徴するのが、日大三高名物の冬の合宿、通称「地獄の冬合宿」です。三高では毎年12月の期末試験が終了した翌日から2週間、早朝から夜遅くまで練習することにしています。

 1日のスケジュールは、ざっと次の通りです。

 朝5時に起床し、5時半に合宿所の食堂に集合して味噌汁を飲みます。これは塩分とたんぱく質を摂取することで、運動するのに適した体にするのが狙いです。

 それから12分間走を行なって、さらに16種類のサーキット・トレーニングと続きます。それから朝食をとり、午前中は通常の練習時をはるかに超えた時間をバッティング練習に割きます。このとき、1球1球「鋭く振る」という意識を徹底させ、スイングスピードの向上をはかります。

 お昼を挟んで午後は守備練習を夕方まで行ない、夕食をとってから1時間ほど素振りをしてからお風呂に入って、21時には消灯となります。

 まさに、朝から夜まで野球漬けの2週間を送るわけですから、「無事2週間を終えることができるだろうか?」と不安に思う選手も実際にいます。選手たちは、毎日その日に取り組んだことをノートに記しているのですが、そこで私はこう言って、選手に心情を吐露させています。

「不安な気持ちを隠すことなんてしなくていいから、今のありのままの思いを、ノートに書き留めておきなさい」

 合宿直前、そして合宿が始まった当初はネガティブな言葉ばかり書いているのですが、私はこれでオッケーだと思っています。たとえば次のようなものです。

「明日はどうなるんだろう?」
「1日が長いなあ」
「早く終わってほしい」

 無理に不安な気持ちを溜め込むよりも、「大丈夫だろうか?」という不安な気持ちを吐き出すことでストレスを軽減できますし、選手の心理状態が私にもつかめるからです。

 このとき私は、選手たちにこんな話をします。

「不安な気持ちもあるだろうし、『やっと今日が終わった』と思う気持ちだってあるだろう。でもそれでいいんだよ。今日1日を全力を出し切って練習して、『また明日やってやる』という気持ちを、徐々に持ってくれたらそれでいいんだ」

 

2週間で人は変われる

 こうして1日、また1日と過ごし、合宿の最終日が近くなると、選手たちのノートはこのようなポジティブな言葉に変わっていくのです。

「あと2日で終わるけど、絶対にゴールしてみせるぞ!」
「明日で合宿が終わるけど、笑顔で終わってみせる!」

 このとき、私が選手たちに配慮していたのは、「ケガをさせない、あるいはケガしているのに無理をさせてまで練習させないこと」です。やみくもに厳しさだけを押しつけるのは、たんに指導者の自己満足であり、選手にしてみたら何ひとつプラスにならないので、その点の見極めだけはきちんと行なうように心がけているのです。

 そうして迎えた合宿最終日の朝、この日は5時半から2時間近く、グラウンドでインターバルのダッシュを繰り返して終えるのですが、終わった瞬間、選手たちは達成感を味わいながら、全員で抱き合って泣くのです。毎年この合宿を行なっていて、どんなに時代が流れてもこの光景だけは変わることがありません。

 合宿が終わった直後、私はグラウンドに選手を集めて、最後に選手全員にこんな話をしています。

「いいか、『がんばる』っていうのは、こういうことを言うんだ。2週間、全力で練習に取り組み、『一生懸命』を積み重ねていく。みんなは貴重な経験をしたんだ。胸を張っていいんだぞ」

 彼らは全員、この合宿を通じて「がんばるとは、どういうことなのか」を理解することができたのです。その姿を見て、「今の若い人たちは、がんばりが足りない」などとは、私には絶対に口に出して言えません。むしろ、一生懸命がんばっているのは私たちの時代よりも上かもしれないのです。

 だとしたら、「若い人たちが、がんばることを知らないのであれば、大人たちがきちんと教えてあげること」が大事なのではないか―。私はそう考えているのです。

小倉流ルール 「がんばる」方法は身をもって教える

<第8回に続く>

あわせて読みたい